
ハードウェアスタートアップのデザイン戦略について考察する当コラム、今回は番外編として、筆者が先日訪れたフランスの製造業と「フレンチテック」に触れたいと思います。
私が訪れたパリの食事の席で、現地の方が以下の言葉を口にしていました。
「フランスはものづくり手放してしまった」
この言葉が意味することが何なのか...とても気になりましたので、今のフランスの状況に鑑み、この言葉の真意を読み解いてみることにしました。

画像:パリの駅Gare de Lyonにて。
パリではlimeを始めとした電動スクーターのサービスが普及しています。
冒頭の言葉はフランスの製造業における経済指標を見るとその現状がすぐに理解できます。
以下の図はフランスのGDPに於ける製造業のシェアの推移で、ここ半世紀ほどで60%も減少していることが分かります。これより、フランス国内での製造業の衰退は見るよりも明らかと言えます。
出展: The Global Economy.com
THE BANQUE DE FRANCE(フランス銀行)の調査によると、製造業空洞化の要因は以下3つに大別されます。
① 生産構造の変化
生産構造の変化は製造業のGDP減少に対する寄与率が47%と最も高く、主要因とされています。生産構造の変化の構成要素としては、特に製造業のサービス関連への支出が上昇したことが主要因として考えられており、結果として相対的に製造業のGDPシェア減少に寄与しています。
② 家計消費パターンの変化
フランス人の家計の消費対象がサービス業に移行していったことが要因であり、これによるGDPに対する寄与率は38%となっています。
③ その他
その他の要因としては、製造業の比較優位を失ったことによる貿易収支の悪化が考えられます。
上記、生産構造や消費パターンの変化に伴い、フランスの生産拠点の海外移転・技術者の流出が相次ぎ、製造業の空洞化が加速したとされています。特に、自動車産業に於いては、半世紀で510万の雇用が200万人ほどにまで減少しています。
上記のようにこれまで製造業の空洞化が進んでいたフランスですが、ここにきて新たな潮流が生まれています。
これまで生産拠点の海外移転の傾向を辿っていたフランスの製造業ですが、2021年においては、新たに120の工場(176の新設工場・56の工場閉鎖を相殺した数字)が新設され、記録的な年となりました。
これに象徴されるように、フランスは製造業回帰の傾向にあるようです。
そして、この背景には2021年10月にマクロン大統領が発表し投資計画「FRANCE 2030」があります。
FRANCE 2030はフランスのイノベーションと産業の再建を図るもので、5年間で300億ユーロの予算化を重点産業に対して行う大規模な計画です。
主な投資分野はエネルギー、自動車、航空、宇宙となっており、分野別投資額は下記の通りです。
・エネルギー分野:80億ユーロ
・EV、低炭素航空機等の輸送分野:40億ユーロ
・食品分野:20億ユーロ
・医療分野:30億ユーロ
・宇宙及び深海分野:20億ユーロ
・その他文化領域等
サービス産業増加の一途を辿っていたフランスですが、エネルギー・モビリティ・宇宙といった製造業とも密接な分野に国をあげて注力していることが注目すべき点です。
次に、フランスのスタートアップに対する取り組みについて。フランスのスタートアップ推進は、2013年から始まっている国家プロジェクト「La French Tech」のもとすすめられており、実は過去6年間でユニコーン企業を25社生み出すスタートアップ大国になっています。(日本は12社)
この動きはFRANCE2030とも重なり、2022年のスタートアップへの投資額は5年前と比較し3.5倍程にまで増加しています。

画像:幕張メッセで開催されたCEATEC2022でも存在感を増すFRENCH Tech
フランスにおける製造業回帰・スタートアップ含む投資戦略は、脱炭素などの潮流を受け、次世代産業に於いて国際競争力を勝ち取る為の産業構造・サプライチェーン再編に向けた取り組みであると言えます。
最後にフランス発のハードウェアスタートアップをご紹介して今回は終わりたいと思います。
EXOTECはLa French Techで初のユニコーン企業となったハードウェアスタートアップで、3次元的に移動が可能なロボット群(Skypod System)による小売向けの物流システムを構築しています。
EXOTECは2015年の創業から僅か6年にして、評価額20億ドルを超える企業に成長しました。ちなみに、日本国内だとユニクロのファーストリテイリングの倉庫に導入されているそうです。
VERKORはバッテリーセルの開発を行うスタートアップで、大規模工場の立ち上げで最近話題になっているスタートアップです。
1.2億ドルもの調達を達成しており、自動車メーカーのルノーからも出資を受けていることから、いかにフランスがEVにシフトをしようとしているかが伺えます。
Exotrailは宇宙用のモビリティソリューションを提供するスタートアップで、小型衛星の宇宙空間での移動を可能にし、展開の最適化・性能の向上・宇宙汚染の低減を可能にすることをミッションとしています。
1700万ドル以上の調達を達成しており、次世代の宇宙ロジスティクスの構築を目指しています。
今回はフランスにおける製造業の変遷と、FRANCE 2030の戦略を背景としたスタートアップの取り組みをご紹介しました。
脱炭素や航空宇宙分野など世界的な潮流の中で、製造業の再構築が国際競争力の命運を握っていると言えるでしょう。産業分野や経済の成熟度などフランスと共通項の多い日本にとってもフランスの国家・大手企業・スタートアップが一丸となった取り組みは参考になります。
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■ 参考文献
・The Global Economy
・THE BANQUE DE FREANCE/ The causes of deindustrialization in France
https://blocnotesdeleco.banque-france.fr/en/blog-entry/causes-deindustrialisation-france
・LA TRIBUNE/
・JETRO
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/01/e90e26b73634be2c.html