346は、デザインを中核においたものづくりを実現し、それによって「日本の製造業の競争力を再興すること」をビジョンとしています。私たちの身近なところには、デザイナーによってデザインされた製品があることが当たり前で、日々それに触れ、暮らしています。日常はデザインにあふれていると言える状態です。そんな身近な存在である「デザイン」を、いまあえて中心におき、ものづくりの旗印にかかげる346。そこに隠れている課題意識、346が見据える自社の役割、日本のものづくりの未来とは...その考えを代表にインタビューしました。346の「デザイン」の定義ーまず、346が使っている「デザイン」という言葉の定義(範囲?役割?)を聞いた方がいいのかなと思っています。菅野まず、僕らの言っている「デザイン」は、製品の想定利用者にとって心地よい見た目をつくる「スタイリング」「意匠設計」だけを指しているのではありません。ーなるほど。一般的には、デザインとは、外観を整えて「素敵」「かっこいい」を獲得する事を指していると思っていました。菅野一般的にはそういった認識の人も多いですが、僕たちは明確にデザインはスタイリングだけに閉じたものではないと定義しています。もちろん、スタイリッシュな外観も重要で、僕らはその点も企業の強みとしています。ですが、そもそも英語でDesignという言葉は『目的を持って計画する、構想、設計、意匠』を意味し、より広い意味を持っている言葉です。したがって、私達はどちらかというと、もともとの語源が意味する範囲を指して使っています。ー確かに、キャリアデザイン、ライフデザイン、という様々な事柄にデザインという言葉を使いますね。菅野デザインという言葉にスタイリングという意味が強く紐づいてしまったのは、日本の大企業におけるデザイナーの役割が影響していると思います。ものづくりの発展の歴史の中で分業が進み「デザイン部」と名前のついたセクションができました。その部門は、製品スタイリングの責任を担っている場合が多く、スタイリングの検討だけで工数のほとんどが埋まってしまうような仕事内容であるケースも少なくありません。これは、製品開発の工程を縦割りにできるだけ、大量の案件があるからこそ成り立つんです。特に、ものを沢山作って売っていた高度経済成長期はこのやり方がとても効率的でした。そして、その時に出来上がったこの図式が、日本におけるデザイナーの役割をイメージづけたのかなと考えています。三枝今の風潮が、デザインの部門が日本でできあがった歴史に基づくというのは、僕も同じ印象を持っています。僕自身がこれまで、大企業のデザイン部門やデザイン事務所で、デザインに従事してきた体験、見聞きした情報からですね。さらにいえば、そもそも日本のデザインは、工芸から派生して、ファインアートの人達が手掛けることが多かった。けど、その人達はマネジメント(経営や管理、財務)に弱く、メカやエレキなどの設計部門の方が、強い傾向にある。そうなると組織的に、メカ・エレキチームの下にデザインチーム…というツリー構造になっていく…という。これがスタートなので、まだこのスタイルが残っているという印象です。つまりは、デザイナーは社内の雇われ絵描きだったんですよね。これがマジョリティのように思います。ーもはやものづくりの原点の話ですね。根が深く、塗り替えにくい看板なのかなという印象です。菅野実際、デザインを発注する側も「見た目を良くする人」と見ているケースが多いです。三枝行動や行為を工程とし、それを縦割にして組織にあてはめてしまえば、絵を描く人、設計する人、と見られちゃいますよね。結果、デザインは「よしなに売れる感じにする」行為と認識され、ここでいうと「絵を描く行為」に比重が置かれているように見えてしまいます。ですが、内側では色んなことが考えられています。買う人のことはもちろん、売る人のことも。成果物だけを見るだけでは中々わかりづらい為、包含された意味合いでとらえられにくいようですね。菅野ですが、時代の変化とともに、企業や製品開発の背景が変わってきています。端的にいうと、企業はだんだん、そんなに沢山はものを作らなくなってきました。多くのメーカーで、1年間に上市する製品のラインナップ数は減っています。一方、1つの製品で実現できる機能が多くなり、開発には電気・ソフトの組み合わせを必要とするケースも増えています。これによって、製品をデザインする上で考えなくてはならないことが多くなり、デザイナーが知らなくてはいけない範囲も広くなりました。例え、スタイリングの担当者だったとしても、技術やビジネスを知らないと良い提案ができないようになって来ているんです。しかし、企業のデザイナーはこれまでの経緯や自身の心持ち、その両方を要因として、拡大した領域への介入をしづらいのです。ー以前、起業経緯のインタビューで、「日本におけるデザインの概念と自分たちの目指している概念に、乖離があり、働きたい場所がなく、起業した」と仰っていましたが、ここまでのお話がまさに。菅野そうですね。ここまでの話が、僕たちが感じていた日本企業におけるデザインの概念であり様態です。僕と三枝ではデザインを見てきた環境が違う為、少し視点が違うところもありますが、大まかには同じことを感じていると思います。ーお2人のご経歴があらわれていますね。(※代表経歴)競争力のあるものづくりのカギを握る3つの「デザイン」ー346では「デザイン」は定義・役割の領域ともにもっと広義であるべきだと考えているのですね。三枝はい。とはいえ、現在も大多数のデザイナーは、ビジネスを考えて製品像を作っています。考慮した方がうまくいくからです。ですが、大企業組織では、デザイナーがビジネスを先導するケースは少ない。トップマネジメントがデザイナーの担当領域を狭めて見ている面もあるし、マネジメントと対等にビジネスの話ができないデザイナーがいること、どちらの面にも課題はあります。ー三枝さんは、日本企業におけるデザイナーの業務領域に疑問があるとお考えですか。三枝はい。企業にいたときそう感じていました。でも、能力がある人は組織図を飛び越えて、上に行くのも見ていました。プロジェクトマネジメントを務め、デザイン中心で開発を進めるという事を実現している。でもこれは少数派で、スポットも当たりにくい。そもそも、大学がそういった教育になっていないという根っこの問題もありますし、企業側もそういう組織・システムになっていないですよね。デザイナーが各セクションの相関関係を見ながら開発ができる状態ではない。一方、ダイソンなどはそれができる組織体制になっているんです。デザインエンジニアリングという部署(マネジメント)があり、デザインと開発業務を両利きで推進しています。ーダイソンの掃除機は、日本企業の体質では生まれないものづくりだ、と例で聞くことがありますね。これが346の言う、「デザインを中核にすることでものづくりに競争力が生まれる」といった状態のことなのでしょうか?三枝競争力のあるものづくりというのは、ひとつに顧客視点レベルの高いものづくりのことです。いわゆる、「人間中心設計」ですね。ユーザーの視点に立って、利便性やニーズを重視して設計をする、という考え方です。デザイナーは常に、ユーザーの目線や体験を重視してものづくりをしています。一方、製造の立場はリスクや責任があるので、どうしても製造都合を重視することになります。もちろん、どちらの立場もいいものを作りたいという想いは一緒です。その2つのポジションの存在がガバナンスにもなっています。当然、どちらに寄り過ぎても良くないですから。つまり、製造工程でもデザイナーの視点…つまりユーザー目線を中核に据え、常に意思決定に関わることが、顧客視点のレベルが高いものづくりにつながると考えます。製造工程に移ったからといって、デザイナーが現場を離れてはいけないということです。その結果、競争力のあるものづくりになる、というのが私達の考え方です。ー製造性や効率・リスク排除ばかりのものづくりになることを防げるわけですね。三枝もちろん結果としてユーザー重視の意思決定がされないこともあります。そうなったとしても、1回議論を挟めば製品全体として結果がかわってきます。肌に着ける金属製品、ユーザーから見ると安全なチタンを使いたいけど、資材にお金がかかる…どうする?という論点が上がったとします。すると、この商品はコストを重視するか、ユーザーの心地よさを担保するか…という議論が生まれます。もちろん、僕らもコストを度外視して、なんでもユーザーに寄り添う姿勢だけを取るわけではありませんが、そのグラデーションの中でデザインとエンジニアでの議論になります。この、一度考えるステップ自体が実はとても重要だよ、と。ーなるほど確かに、スタイリングの領域の話ではないことが、ようやく理解できてきました。ーものづくりの工程全体にデザイン(ユーザー目線を持つ346)が関わることで、競争力のあるものづくりができる、というのは、優秀なプロジェクトマネジメント、という役割に近いのでしょうか。菅野そうですね、近いと思います。スケジュールやタスクの管理推進を担うプロジェクトマネージメントは、ものづくり全体を円滑にすすめる重要な機能です。デザインも同様にものづくり全体を推し進める要素である、ということを表現しています。つまり、前述したように「デザイン」はスタイリングのみを指しているわけではありません。ー菅野さんの言う、デザインはスタイリングとイコールではない、というのはこういったグランドデザインのような全体設計を指すのですね。菅野あ、でも、デザインの定義について色々言っていますが、前提として、僕らはスタイリングも大事だと思っています。ですが、ビジネス全体の考慮が不足していたり、要件定義が不十分なものをスタイリングしても、結果的に意味のないアウトプットにしかなりません。いいものをつくりたければ、デザイナーが全体の要件定義に介入した方が良いです。ここでいう要件とは必ずしもはじめからわかっているものではないので、結果的にものづくりの工程全体に関わることになります。大雑把に整理すると、346が「デザイン」の対象とするものは以下の3つです。----------------技術(Engineering)のデザイン要素技術や発明を社会実装できる構成にデザインすること。(機能/安全性/製造性/耐久性など)体験(Experience)のデザイン利用者が製品と接する際の体験を豊かなものにデザインすること。(使いやすさ/外観の美しさ/ブランドとの整合性/外部環境との調和など)経済性(Economics)のデザイン製品またはサービスが持続的に提供可能な事業モデルをデザインすること。(コスト/販売価格/サプライチェーン/事業リスクなど)----------------これらの3つのデザインを偏りなく推し進める事が、従来の非効率的で分断されている日本のものづくりを変革すると、考えています。三枝製造業において、これを窓口ひとつで一気通貫に支援できるチームはなかなかありません。つまり、全方位に対して知見を持っているメンバーが揃っていて、会社としてもノウハウや技術資産を保有していることが僕らの強みです。(取材・ライティング:橋尾 日登美)■ 関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリー<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346では様々な職種でメンバーを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。