本記事では、ハードウェアスタートアップが行う新商品開発プロセスにおいて、有効なフレームワークやそのメリットについて解説し、企業が効率的に新しい商品を開発する方法をご紹介します。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1.新商品開発のプロセス(1)市場調査~ニーズ発見新商品開発プロセスの中で最も重要要素の一つは、市場調査とニーズ発見です。市場調査は、新商品を開発する上で最初に行う作業であり、 市場情報を収集し、既存商品の評価や分析を通して、顧客獲得のための戦略立案や商品企画に活用します。また、ニーズ発見とは、市場調査を行った上で、顧客が求めている商品やサービスの特徴を把握することです。 例えば、流行とその動向の調査や顧客の声を収集することで、新商品の開発に有効な情報を得ることが可能です。 また、これらの調査手法はマーケターや商品企画担当者に限らず、開発者が新しい商品を開発する際の機能分析としても役立てることができます。特にスタートアップではプロダクトアウトで開発が先行しているケースが多くありますが、製品と市場との乖離を防ぐ為には、市場調査やニーズ発見の段階で下記のような視点を持つことが重要です。<顧客ニーズを正確に把握しているか>経営者や開発担当者が想定している顧客ニーズは、願望ともとれるバイアスがかかっている可能性があります。したがって、顧客ニーズを正しく理解するには、定性定量の両方の観点で情報収集と分析をすることが望まれます。<他社の製品と比較し、競合調査ができているか>例えそれが革新的で真新しい商品に見えたとしても、そこには必ず競合やベンチマークすべき製品が存在します。同業界の例でなくとも、既存製品や既存サービスの比較を通して、製品開発の実現性や自社製品の強みを明らかにすることが重要です。<市場規模をしっかりと認識できているか>現在取組んでいる製品開発にどれくらいの予算を投資すべきかを図るには、その製品が獲得し得る市場規模の把握が必須です。ただし、この市場規模は公知の統計調査に基づくものではなく、製品が実際にリーチすることができる市場に関するものであり、さらには、リーチする為のアクションが具体的に明示できる市場の規模であることが望まれます。(2)商品企画~開発プラン商品企画から開発プランを立てるプロセスは、ハードウェア開発においてとても重要な一歩です。ここでは、市場調査の内容に基づき、ユーザーが望む機能や性能を踏まえた商品企画を作成します。そして、商品企画で定義した機能・性能を実装する為の、開発プランを立てて、開発を進めます。開発プランは、開発する商品の機能や性能、特徴、コストを詳細に記載したものです。また、開発にかかる時間や、開発に必要な資源などを予測し、開発プランの中で計画することも重要です。(3)設計開発~テスト(評価)設計開発とは、開発プランに従ってハードウェアを作ることを指します。ハードウェア開発プロジェクトを達成するためには、構造設計、回路設計、プロトタイプ作成から最終製品の製造まで、様々な技術を駆使する必要があり、ソフトウェア開発とは異なる技術が必要になります。テストでは、開発したハードウェアの機能や性能を標準規格などに沿って確認します。また、ここでは実験的なテストやシミュレーションなど様々な方法とツールを用い、ハードウェアが期待した動作をするかの検証が行われます。2.ハードウェアスタートアップが活用できるフレームワーク次に、ハードウェアスタートアップが活用できるフレームワークの中でも、特に有効的なものを3つ紹介します。(1)短時間でのニーズ発見~プロトタイピングプロトタイピングとは、ハードウェアスタートアップの商品開発において欠かせないプロセスです。プロトタイピングを行うことのメリットには下記のようなものがあります。・顧客からのフィードバックの収集・技術的リスクの低減・コミュニケーションの改善新しい商品を開発する際には、まずはプロトタイピングで原理モデルを作成し、その使用実験を通して市場のニーズを把握します。プロトタイプには、3DプリンターやCNC加工などを用いたものから、ペーパープロトと呼ばれる簡易的なものまであり、試作の用途や開発フェーズによって使い分けることが重要です。また、プロトタイピングでは、最終的な商品開発に必要なデータを収集することも可能です。例えば、実際の使用者がプロトタイプを使用してどのような反応を示すかを観察するなどを通して、商品開発に必要なデータを収集することが可能です。プロトタイピングは、短時間でニーズを発見するだけでなく、開発プランを立てるのにも有効な手法です。今後も、スタートアップが新商品開発のプロセスにおいて多様されていくことでしょう。(2)開発プランを速やかに実行~アジャイル開発アジャイル開発とは、不確実性の高い商品開発などに用いられる開発プロセスです。アジャイル開発では、開発プランを細かく分割し、徐々に実行していきます。これによって、プロジェクトのリスクを早期に発見し、結果的に短い時間で商品開発を完了できる可能性を秘めています。さらに、アジャイル開発では、開発中における反復プロセスを活用して、開発プランを改善していきます。このプロセスを「リファクタリング」といい、開発プランを常に改善していくことで、開発期間の短縮にもつながります。アジャイル開発は主にはソフトウェア開発で活用されることが多い手法ですが、前述のプロトタイピングなどの手法と併用することでハードウェア開発にも十分取り入れることができます。(3)製品の品質リスクを防ぐ~UFMEAUFMEA(Use Failure Modes and Effects Analysis)は、ユーザーのエラーモードを抽出するためのFMEAの一種です。UFMEAは、製品が使用される際にユーザーが行う操作とそれに伴うエラーに焦点を当てて分析するものです。UFMEAは、ユーザーエラーが起こる可能性、影響、およびそのエラーを防ぐために実施すべき対応策を明確にすることを目的とします。進める際には、製品を使うユーザーの行動を一覧化し、行動一つ一つで発生しえるエラーモードの分析と対応案の検討を実施します。これにより、製品の使用性や安全性が向上し、ユーザー満足度が向上することが期待されます。設計完了してから操作に伴う重大なエラーが発見されてしまうことは、開発に甚大な手戻りを生み出しますので、UFMEAは製品開発の最初の段階から実施することが望ましいです。そして、1度だけでなく製品のライフサイクルを通じて適宜実施することを進められます。このフレームワークを活用することで、製品の使用性や安全性が向上し、顧客満足度も向上することが期待されます。3.フレームワークの活用メリット(1)開発期間の短縮いずれのフレームワークも、ハードウェア新商品開発プロセスの効率化が期待できます。開発期間の短縮は時間に比例する固定費の削減効果を得られるだけでなく、発売時期を早めることにつながりますので、収益の刈り取り期間を長期化し、2重の恩恵を得ることが可能です。(2)要件変更への対応力向上商品開発の流れで必要不可欠なのが、要件変更への対応力です。市場のニーズや顧客の要求が日々変化していくことを完全に防ぐのは非常に困難です。 そのため、要件変更への対応ができるかどうかが、新商品開発の成功に大きく関係します。フレームワークはもとより体系的に物事を進める為の手段ですので、フレームワークを活用し、資料として開発活動の記録を残しておくことは要件変更した際に、必要最低限の変更対応で済ませることに役立つことでしょう。4.まとめ今回の記事ではハードウェアスタートアップが効率的に新商品を開発するフレームワークを解説しました。新商品開発プロセスは市場調査とニーズ発見に始まり、商品企画と開発プランを立て、それを実装・テストするなど多くの工程がありますが、いずれも重要な作業といえます。そのプロセスの中で、いかに効果的に検証や設計を行い開発のPDCAを回していくかは、事業全体の収益性担保や事業リスクの低下を目指すうえで、かならず意識しなくてはいけない観点です。今まさに新商品開発を行っている人にとって、今回紹介したフレームワークを活用する場は多分にあるのではないかと思います。Wrriten by 346 inc. with Xaris(株)346では、製品デザイン・設計支援を中心に総合的な支援を提供しております。デザインを取り入れ世界に技術を伝えていきたい、そんなハードウェアスタートアップ企業様からのご相談もお待ちしております!ご相談は、当社ウェブサイト問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。製品開発に関する解説記事【新商品開発】アイディアを生む4つのポイント解説!事例や方法論も工業製品開発の基本フレームワーク解説:新商品開発に役立つ手順3パターンその他関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリー