"ブランドデザイン"とは、企業の資産であるブランドの認知を高める為に利用される手法のことです。ブランドデザインでは、ブランドの価値を高めるために必要な、すべての活動(ビジュアル、コミュニケーション手段、サービス品質など)をデザインの対象としています。この記事では、ブランドデザインの基本的な概念や役割、その効果や作成方法を解説します。ブランドデザインの成功事例も紹介していますので、ブランドデザインや企業価値を高める方法について知りたい方は参考にしてください。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1.ブランドデザインとはブランドデザインでは、ブランドのアイデンティティ、ポジショニング、ブランドの表現方法などを定めます。ブランドデザインに取組めば、企業の目的や価値観、イメージなどを適切な形で顧客に伝えることが可能となります。そして、ブランドの表現を通じて、ブランドの価値・認知度を高めることができれば、顧客ロイヤリティの向上やリピート購入の増加などの様々なメリットを得られます。(1)ブランドとはここでいうブランドとは、対象製品やブランドロゴをみたり、ブランドの名前を聞いたときに思い浮かべる印象のなどを指します。例えば掃除機を見たときに、頭のなかで「〇〇社」という特定のブランドが思い浮かんだのであれば、〇〇社は掃除機領域で強いブランド力を持っているといえます。ブランドの価値が高まれば、商品・サービスの購入につながる可能性も高まります。また、一度確立したブランドは事業全体に影響を及ぼすものであり、持続的にも利用可能なものとなります。その意味でブランドは、資本や権利などと同様に「企業の資産」であるといわれています。(2)ブランドデザインの役割ブランドデザインの役割は、ブランドの価値・認知度を高めるためのすべての活動をデザインすることです。デザインと言うと、多くの人がロゴやパッケージなど視覚的に表現する「ビジュアルデザイン」を連想しますが、「デザイン」の対象はソフトウェアのインターフェースや顧客エクスペリエンス(顧客体験)の設計なども含みます。特にブランドデザインでは、顧客との接点となる領域のデザインを重視し、製品意匠、ロゴデザイン、画面、マーケティングツールなどへの介入やガイドライン作成、それの元となる戦略策定を行います。そして、これらの活動を通して企業や製品の思いや魅力を伝え、ブランドの価値・認知度の向上に努めます。2.ブランドデザインの価値ブランドデザインでは以下5つの項目を高めることを目指します。ブランド認知知覚品質ブランド・ロイヤルティブランド連想その他所有権のあるブランド資産順に解説します。(1)ブランド認知ブランド認知とは、そのブランドが「どの程度知られているか」や「どのように知られているか」ということです。優れたブランドデザインは、ブランドのメッセージやコンセプトを顧客に適切・効果的に伝え、ブランドの認知度を向上することができます。事業を成功させる為には、顧客がそのブランドをどれだけ認知しているか、ブランドのことをどれだけ理解しているかが非常に重要な観点となります。認知度が高いブランドは、顧客が商品を選ぶときの選択肢に上がりやすく、さらにその印象が良ければ、結果として販売数の増加につながる為です。とくに、視覚的情報は言葉よりも長く記憶に残りやすく、印象的なロゴ、パッケージ、製品意匠やそれらを繰り返し提示する仕組みは、ブランドの認知度向上に効果的な打ち手とされています。(2)知覚品質知覚品質とは、顧客が製品・サービスに触れた際に知覚的に感じられる品質のことを指します。例えば、自動車を例にとると、以下のような知覚品質の項目が挙げられます。<自動車の知覚品質(例)>基本機能(走行時の加速性や操作性、安全性、速度、快適性など)付加機能(カーナビシステムやETCシステム、フロアマットなど)信頼性(故障の発生頻度の少なさなど)付加サービス(アフターサービスや保証システムなど)こうした知覚品質を通じて、顧客はブランドの価値を実感することができます。一見、設計や商品企画の業務として定めるような項目にも見えますが、これらの設定に先立つのは、「ブランドとしてどういった世界や体験を目指すのか」といった指針であり、これを定めるのがブランドデザインの役割でもあります。ただ、知覚品質は顧客の主観や体験、価値観によって変わるため、実品質が優れていれば知覚品質が上がるとも限りません。対象とする顧客にとって必要のない品質が上がったところでブランド価値の向上につながりません。例えばたとえば、高級車は高価だから性能がよいとイメージされやすいですが、実際の性能は所有している人でないとわかりません。そして、車に性能を求めていない人や性能の違いがわからない人からすると、高級車は高いだけでしかなく、ブランドの価値を感じるものではありません。また、知覚品質には、ポジティブな知覚品質の浸透には時間と努力がかかるが、ネガティブな知覚品質はすぐに浸透してしまうという特徴があります。従って、品質の低い製品を出してしまうとブランドの価値を著しく棄損してしまう可能性がある為、製品の出荷品質はブランド管理の観点でも細心の注意が必要です。(3)ブランド・ロイヤルティブランド・ロイヤルティとは、顧客がブランドに対してどの程度強い信頼と愛着を持っているかを表す指標です。ブランド・ロイヤルティが高ければ、たとえ価格が高くても、自社の製品やサービスがほかのブランドよりも優先して選ばれる傾向が高くなります。従って、自社のブランドに対するブランド・ロイヤルティの高い顧客が多いほど、安定した売上や利益を確保できます。。ちなみにブランド・ロイヤルティは製品・サービスの利用体験とその繰り返しにより構成されます。また、ブランド・ロイヤルティの高い顧客(ロイヤル・カスタマー)は、情報発信や企業との積極的なコミュニケーション(要望やフィードバックの提供)をする傾向にあり、ブランド成長のための重要な情報源ともなり得ます。(4)ブランド連想ブランド連想とは、ブランドを思い浮かべたときに連想するものを指します。例えばマクドナルドのブランド連想であれば、ブランドのロゴ(例:丸い「M」の文字)やカラー(例:黄色・赤)、商品(例:ビッグマック・ダブルチーズバーガー)、店舗デザイン(例:キッズスペースがある店舗が多い)、アプリケーション(例:お得なクーポンが多い)などが挙げられるでしょう(もちろん、連想するものや解像度は人それぞれ異なります)。ブランド連想には、顧客の実体験に基づくものと、広告や評判などに基づく場合があります。ブランド連想で競合と差別化をはかるためには、実体験や広告などを上手く活用して、顧客に強い印象を与える必要があります。適切なブランド連想を顧客から引き出せれば、顧客に対して商品などを効果的にアピールでき、またブランドの価値の向上にもつながります。(5)その他所有権のあるブランド資産その他所有権のあるブランド資産とは、ブランドが持つ特許や商標、著作権などの自社が保有する知的財産のことです。知的財産には、自社ブランドが他社に模倣されることを防ぎ、自社の独自性や優位性を保つ機能があります。ブランドデザインでは、知的財産の戦略や適切な管理業務も重要となります。3.ブランドデザインの進め方ブランドデザインの進め方を解説します。外部環境や進む方向を確認するブランドコンセプトを策定する伝え方・活動を検討するブランドをデビューさせる(1)環境や進む方向を確認するブランドデザインを構築する際は、まず市場や顧客のニーズ、競合他社の状況を調査し、自社が置かれている環境や立場を確認します。競合他社がひしめく領域や、ニーズの少ない市場を避け、自社の強みを発揮できる領域を見つけ出すことがセオリーとされています。環境分析に使用される代表的なフレームワークを紹介します。【環境分析の代表的なフレームワーク】フレームワーク特徴PEST分析外部環境を「政治」「経済」「社会」「技術」の4つに分類し、自社に与える影響を分析5F分析自社を取り巻く環境要因を「競合他社の脅威」「代替品の脅威」「新規参入の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」の5つに分類し、その業界の魅力や力関係を分析3C分析Customer(顧客や市場のニーズ)やCompetitor(競合の強みや弱み)、 Company(自社の強み弱み)の3要素から自社を取り巻く環境を分析SWOT分析自社を強み(Strength)と弱み(Weakness)、機会(Opportunity)と脅威(Threat)の4つに分類し、自社を取り巻く内部環境と外部環境を分析 (2)ブランドコンセプトを策定する次に、上記の分析結果をもとに、ブランドコンセプトを策定します。ブランドコンセプトは、ブランドの発信内容やデザインのガイドラインを定める際の方針になります。ブランドコンセプトは以下のミッション・ビジョン・バリューの3つで定義されることが一般的です。ミッション:ブランドが存在する意義や目的ビジョン:ブランドが目指す未来の姿バリュー:ブランドが持つ価値ブランドコンセプトはブランドの「軸」となり、ブランドに関わるすべての活動や製品やサービスを通じて伝えるメッセージの一貫性を保つ役割を担います。また、ブランドの意義や目指す姿が言語化されることは、顧客とのコミュニケーションを円滑にすることにも貢献します。(3)伝え方・活動を検討するブランドは、ブランドそれ自体や、ブランドが伝えたいことが社内外に広がってこそ生きるものです。従って、定めたブランドコンセプトを社内にどのように浸透させるか、社外にどう発信するかを具体的に検討する必要があります。例えば、視覚情報の提示の仕方(ビジュアル)や言葉づかいなどを定めたガイドラインを作成したり、製品、パッケージ、広告、ディスプレイなどの制作物の統一感を持たせる取り組みを行います。適切な伝え方や活動が実現できれば、、顧客に対してブランドの個性や価値を効果的に伝え、印象づけることができ、ブランドの価値を高めることにつながります。(4)ブランドをデビューさせるブランドをデビュー(公開)させるときは、プレスリリースなどのマーケティング活動を実施し、初速で広い認知を獲得することが重要です。この際にも、先に決めたブランドコンセプトやガイドラインに従って丁寧にブランドを訴求することが求められます。もちろんブランドはデビューさせて終わりではありません。ブランドのデビュー後は、マーケティングやサポートなどを通して、顧客とのコミュニケーション活動を積極的に実施し、時間やお金をかけてブランドの浸透に努めていく必要があります。4.ブランドデザインのコツブランドデザインを成功させるコツをご紹介します。デザインには一貫性を持たせるターゲットに合わせたデザイン(1)デザインには一貫性を持たせる前述でも触れましたが、ブランドの認知度を高め、信頼感を高めるためには、ブランドの伝え方における一貫性が重要となります。特にロゴやパッケージ、フォントなど、ビジュアルを用いてブランドを象徴する要素は、統一感を持たせることで一貫性を演出できます。また、一貫したビジュアルを繰り返し認識させることができれば、ブランドを人々の記憶に残しやすくなるでしょう。消費者がブランドを繰り返し認識する機会を提供し、そのブランドの記憶を強化していく観点も重要です。類似市場に多くのブランドが存在している場合、一貫したビジュアルアイデンティティは、他のブランドとの差別化を図るのにも役立ちます。また、ブランドのビジュアル要素が統一されていれば、「新しいマーケティング資材の作成が迅速かつ経済的になる」という副次的な効果も得られます。(2)ターゲットに合わせたデザインブランドをより効率的に顧客に浸透させる為には、ターゲットとなる顧客に合わせた言葉選びやビジュアルデザインが重要となります。したがって、まずは自社の商品やサービスが誰に向けて作られているのかを明確にし、その人たちがなにを求めているのかの理解が必要です。例えばたとえば自動車製造業の場合、高級車を製造するブランドとエコカーを製造するブランドでは、伝わりやすい言葉や好まれるビジュアルが大きく異なります。例えば、高級車ブランドで、豪華さや上質さを表現するためにシックな色調や高級感のある素材を使用したデザインが採用されたとします。しかしそのデザインは、エコカーを好む顧客の目から見た場合にはマイナスに働く恐れもあります。もちろん、ターゲットとなる顧客層がひとつでない場合もありますが、ターゲットがあいまいなデザインにしないように留意が必要です。5.ブランドデザイン 成功事例(1)バーミキュラの事例引用:愛知ドビー株式会社愛知ドビー株式会社は、1つ3万円と高価格帯のホーロー鍋「バーミキュラ」を製造・販売している会社です。2020年には売上高50億円を超えた鋳造メーカーで、バーミキュラは2010年に発売されて以降、人気を集めている鍋です。バーミキュラは、「世界一、素材本来の味を引き出す鍋。」をコンセプトに掲げ、顧客視点のブランドデザインに成功したことで、ファンを増やし続けています。具体的には、以下の取り組みなどを行なっています。気密性を高めた鋳造ホーロー鍋を開発使い方など疑問を解消するために、専用のコールセンターを設置調理系に関する質問は専属シェフが対応、レシピを考えてくれる「料理を楽しめる」「暮らしが変わる」を大事にした一貫性のある活動で、バーミキュラは顧客に寄り添ったブランドザインに成功しているといえます。(2)ユニクロ(UNIQLO)の事例引用:ユニクロかの有名なユニクロは、ファーストリテイリンググループを代表するブランドであり、国内だけでなく海外での認知度も高いファストファッションブランドです。「LifeWear」というシンプルなコンセプトにもとづき、良質でシンプルな衣類を提供しています。ブランドカラーには赤と白を用い、シンプルでわかりやすいロゴデザインを採用。店舗デザインも一貫性が保たれ、どの店舗に行ってもユニクロのブランドを感じられます。さらに、オンラインとオフラインの連携も整っており、どちらで買い物をしても同じ体験ができるよう工夫されています。製品の品質や一貫性のある価格設定もユニクロのブランドを担う重要な要素です。これらを含む様々な取り組みにより、ユニクロは世界中で高い認知度と信頼性を獲得しており、競合他社との差別化に成功しています。6.ブランドデザインにお悩みなら346にご相談ください優れたブランドデザインは、ブランドの信頼感やロイヤルティを高め、競合との差別化を可能にします。しかし、ブランドデザインの活動は多岐にわたり、デザインやマーケティングなど、複数専門性も必要になるため、専門家に依頼するのもひとつの方法です。弊社346にはデザインに加えて、製造業に特化したマーケティングの専門性を持つメンバーが在籍しています。もしブランドデザインに関するお悩みやお困りごとがある場合は、是非346にご相談ください。各企業の特徴、文化、意向を踏まえたうえで、経営資源を最大限に活かしたブランドデザインをご提案が可能です。初回無料相談も行っているので、製造業に関するお悩みがあれば346までお問い合わせください。株式会社346について 【会社概要】 会社名:株式会社346 本社:〒370-0059 群馬県高崎市椿町24-3(2F) 東京営業所:〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16 農工大・多摩小金井ベンチャーポート 202号室 (東京農工大学小金井キャンパス内) 代表者:三枝守仁 設立:2017年7月21日 URL:https://346design.com/ 事業内容: デザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業。グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)をはじめとし、国内外問わず多くの受賞実績を持つメンバーで構成され、大企業やスタートアップ企業向けの実績多数。企画、デザイン、設計、量産まで、製品開発にかかわる支援をワンストップで提供。デザインに関する解説記事身近なユニバーサルデザインの事例13選!珍しいケースや歴史もユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いもデザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説製品試作の製作と評価:品質を向上させるための試作品の基本プロセスと活用メリットプロダクトデザインの料金の相場は?内訳や事例、依頼時の注意点も解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説デザインレビューとは?目的や製品開発を成功に導く効果的な進め方を解説<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。346へのデザイン・製品開発依頼はCONTACTよりお問い合わせください。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。Wrriten by 346 inc. with Xaris