ブランディングとマーケティングは、ビジネス上でよく聞く言葉ですが、それぞれ目的や役割、関係性を正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。この記事では、ブランディングとマーケティングの役割や目的、関係性を具体例付きで解説しています。ブランディングやマーケティングに興味のある方は、ぜひ参考にしてください。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1. ブランディングとマーケティングブランディングとマーケティングの定義やその違いについてはさまざまな考え方がありますが、本記事では、次の通り定義します。ブランディング:企業や製品に対する顧客の認知度やイメージ等からなる、ブランドの価値を最大化する活動。顧客や取引先などから「選ばれる存在」になることが活動の目的マーケティング:顧客ニーズの理解を深め、ニーズに沿った製品・サービスの開発や宣伝などを行う活動。製品・サービスの購入や利用を促すことが活動の目的ブランディングをマーケティングの手法の一つとして位置づける人もいます。しかし、現在ではブランド論の第一人者である、デイヴィット・アーカー氏が提唱した「ブランドは企業の資産であり、事業戦略を左右するもの」という認識が一般化しています。そして、世界を代表するブランドコンサルティング会社のインターブランドは、1988年頃から各企業のブランド価値を金額で換算する活動をはじめています。これらのことをに鑑みると、ブランドはマーケティング戦略の一部として位置づけられるものではなく、むしろマーケティングを含むあらゆる企業活動に影響を及ぼす重要な要素として位置づけられます。実際、ブランドの理念に従い、商品開発や営業、人材育成、社会貢献などさまざまな活動の方針を決定する企業も少なくありません。本記事では、アーカー氏が唱える「ブランド=企業資産」という理論にしたがって解説を行います。2. ブランディングとはブランディングとは、ブランドに対する顧客の信頼感やロイヤルティを向上させ、その結果として顧客や取引先などから「選ばれる存在」になるための活動です。場合によっては、企業文化の構築や刷新を行う活動だとも言い換えられます。ブランドの価値は目にみえる機能や性能ではなく、各関係者が心に抱くイメージや認識によって評価されます。例えば、ある製品の購入を検討する際に、顧客の頭の中で「○○にしようかな」と候補になる企業の製品は、ブランド価値が高い製品だといえます。ブランド価値についてさらに詳しく解説します。前述したアーカー氏は、ブランドを構成する要素(ブランド・エクイティ)として、以下の4つを挙げています。【4つのブランド・エクイティ】ブランド・エクイティ概要ブランド認知・ブランドの認知度知覚品質・顧客が製品/サービスから感じられる品質・顧客の期待/ニーズに応えられる品質であれば、知覚品質が高いといえるブランド連想・ブランドから派生する連想(イメージ)・例えば、iPhoneなどを販売するアップルのブランド連想であれば、「モノトーン」「洗練された」「ユーザビリティが高い」などのイメージが挙げられるブランドロイヤリティ・ブランドに対する愛着や忠誠心・ブランド価値を構成する最も重要な要素つまり「ブランド価値が高い」状態とは、ブランドの認知度が高く、知覚品質が優れており、ブランド連想が豊かであり、それらがブランドロイヤリティの高さに結びついている状態のことを示します。ブランディングでは、これらブランド・エクイティを向上させることで、自社のブランド価値を高めていきます。(1)ブランディングの種類ブランディングは、「なにを対象にするか」と「誰を対象にするか」で分類することができます。①コーポレートブランディングとプロダクトブランディングブランディングは「なにを対象にするか」という観点で、「コーポレートブランディング」と「プロダクトブランディング」の2種類に大別できます。【ブランディングの種類1】種類ブランディングの対象コーポレートブランディング企業全体のブランド価値(ブランド・エクイティ)を高める取り組みプロダクトブランディング製品やサービスのブランド価値(ブランド・エクイティ)を高める取り組みなお、コーポレートブランディングと、プロダクトブランディングの関係性は、企業によって異なります。また、ブランドコンサルタントの上條憲二氏は、その著書で、コーポレートブランディングとプロダクトブランディングの関係性を3つのタイプに分類しています。自社がどのタイプにあてはまるのか確認することで、コーポレートブランディングとプロダクトブランディングにどのように取り組むべきかの指針を得ることができます。【コーポレートブランドとプロダクトブランドの関係性の3タイプ】タイプ概要①マスターブランド体系・コーポレートブランドの価値が前面に現れているタイプの企業・例えば、BMWとその製品の関係や、ハーゲンダッツとその商品の関係など・このタイプの企業は、コーポレートブランドを強化することで、プロダクトブランドの価値も高められる②エンドースドブランド体系※「エンドース」とは「保障する」などの意味・コーポレートブランドによって個々のプロダクトブランドの価値が保障されているタイプの企業・例えば、トヨタとクラウンの関係や、SONYとウォークマンの関係など・このタイプの企業は、コーポレートブランドを意識しつつ、プロダクトブランドの独自性を強化するブランディングを行う③フリースタンディングブランド体系・コーポレートブランドがほとんど表に出ないタイプの企業・例えば、P&Gとファブリーズ、P&GとSK-Ⅱの関係など・このタイプの企業は、それぞれのプロダクトブランドの価値を高めるブランディングを行う②インナーブランディングとアウターブランディングブランディングの対象は、製品・サービスの顧客だけに留まりません。ブランディングは「誰を対象にするか」という観点で、「インナーブランディング」と「アウターブランディング」にも分類できます。【ブランディングの種類2】種類概要効果インナーブランディング企業が自社の従業員に向けて、自社やブランドの価値、ビジョンを共有し、理解・浸透させる活動・社員が自社や製品に魅力を感じるようになる・社員の転職が少なくなる・社員のモチベーションが高まるアウターブランディング企業が顧客や取引先など、対外的なブランド価値を高める活動・製品/サービスが選ばれやすくなる・料金が高くても買ってもらえる・買い続けてもらえる2. マーケティングとは一方、マーケティングとは、製品やサービスを顧客に提供する過程で、顧客ニーズを理解し、それに合わせて製品やサービスを開発、宣伝などを行う一連の活動のことです。顧客の購入や利用を促すことが目的となります。。広告や宣伝を指す場合もありますが、それ以外にも、市場調査や製品開発、価格戦略など、販売を促進する目的を持つさまざまな活動が含まれます。(1)マーケティングの手法マーケティングの主な手法としては、以下が挙げられます。マスマーケティングダイレクトマーケティングインバウンドマーケティングデジタルマーケティングリアルマーケティングそれぞれの概要と目的を以下の表でご紹介しましょう。【主なマーケティング手法】マーケティングの種類概要目的マスマーケティング広範囲の顧客に対して一括りに宣伝や販売活動を行うマーケティング手法(テレビCMや新聞広告など)製品やサービスの認知拡大と販売促進ダイレクトマーケティング企業が顧客と直接コミュニケーションをとり、顧客のニーズに応じた製品やサービスの購入を促すマーケティング手法(電話やメール、ダイレクトメッセージなど)顧客のニーズに直接応えて効率的に売上を上げるインバウンドマーケティング顧客が自ら製品やサービスに関心を持って接触することを促すマーケティング手法(WebサイトやSNS、メルマガなどで有益な情報を発信)顧客の関心や信頼を勝ち取り、自発的な購買行動を促すゲリラマーケティング低コストかつ常識にとらわれないマーケティング手法(ラッピングしたバスや電車、フラッフモブなど)低予算で製品やサービスの認知を拡大するなお、これらのマーケティングを領域別に分類すると「デジタルマーケティング」と「リアルマーケティング」に分けられます。領域概要目的デジタルマーケティングインターネットを活用して行うマーケティング手法(SNS広告マーケティングやWebサイト運用動画広告など)インターネット上で情報収集する顧客に向けて、適切なタイミングで情報を届けるリアルマーケティング顧客に対面して製品やサービスのことを伝えるマーケティング手法(街頭サンプリングや試供品提供、集客イベントなど)顧客の意見を直接聞き、反応を確かめる販売する製品やサービス、ターゲットとする顧客などによって手法を変えたり、組み合わせたりすることで、販売促進につなげます。(2)マーケティングの役割と効果マーケティングは、顧客ニーズを的確に捉え、これを製品開発や宣伝戦略に適用する重要な役割を担っています。企業が提供する製品やサービスが高品質・高機能であっても、それが市場で十分に認識されていない場合、あるいは顧客のニーズと合致しない場合、成果を上げることは困難です。逆に、マーケティング活動を通じて、顧客の問題解決に貢献する商品やサービスを開発し、戦略的な宣伝活動を行うことができれば、企業は市場競争力を強化でき、収益の増加を実現することができます。2. ブランディングとマーケティングの違いブランディングとマーケティングの目的や活動、効果などによる違いをいかに示します。【ブランディングとマーケティングの違い】ブランディング視点マーケティングブランド価値(その企業らしさ)を向上させることにより、顧客から「選ばれる存在」になること目的企業の製品・サービスの購入や利用などを促す仕組みづくりを行うことブランドの理念やガイドラインに基づき、あらゆる企業活動をマネジメントする活動製品・サービスの購入を促す広告や宣伝、市場調査、製品開発などの活動長期期間短〜中期ブランド認知度、ブランドイメージ、ブランド評価など成果売上、投資対効果など(1) 目的の違いブランディングの目的は企業や製品に対する顧客の認知度やイメージ等からなる「ブランド」の価値を最大化し、顧客や取引先などから「選ばれる存在」になることです。それを実現するために、前述したブランド・エクイティ(ブランドの4つの構成要素)を向上させていきます。一方、マーケティングの目的は、製品やサービスを販売することです。どうすれば商品を購入してくれるか、自然に売れるようにするにはどうするのかを考えて施策を立案し、コストパフォーマンス高く売上を上げることを目指します。(2)活動の違い前述したとおり、ブランドは各関係者が心に抱くイメージや認識によって評価されます。そのため、ブランドは製品やサービスの品質、店舗の雰囲気、ロゴのデザインなどのさまざまな領域を通して、徐々に形成されていきます。したがって、顧客と接点を持ち得るあらゆる企業活動がブランディングの活動にあたるといえます。一方、マーケティングは、製品やサービスをターゲットとなる顧客に適切に届けることが主な活動です。市場調査などによって顧客ニーズを調べ、その結果に基づいて製品開発、価格設定、宣伝、販売戦略立案などがその活動の範囲となります。(4) 期間の違いブランディングは、ブランド価値を浸透させるために長い時間を必要とするため、長期的な視点で行われます。少なくとも数年単位の活動として取り組み・評価を行います。マーケティングは、ブランディングと比較すると短期的な視点で行う活動が多くなります。商品の販売やキャンペーンの実施など、具体的な目標達成のために短期間で結果を出すことが求められるためです。(5) 成果の違いブランディングの成果は、調査やアンケートに基づくブランド認知度やブランドイメージなどで評価されます。一方、マーケティングの成果は、収益、売上高、販売数、市場シェアなどで評価されます。3. 成功事例ブランディングとマーケティングの成功事例をそれぞれご紹介します。(1) ブランディング事例 トヨタ自動車引用:トヨタ自動車株式会社トヨタ自動車は、その長い歴史と技術力をもって、「安心」と「信頼」というブランドイメージを顧客に与えてきました。車を購入するとき、安心と信頼は重要な決定要素であり、これほど大事なブランドイメージはありません。作業工程の効率化と不良品をなくすことを目的としたトヨタ生産方式によって、手頃な価格で高品質な車を提供し続けてきたこともブランド構築に大きく貢献していると考えられます。また、製造品質以外にも丁寧なアフターサービスなどの取り組みを長年続けてきたことも「安心・信頼」のブランドイメージを確立したことに寄与しています。更に、昨今では社外向けコンテンツである「トヨタイムズ」では、自社の価値観やビジョン、製品の特徴や技術、社会貢献活動などさまざまな情報を提供しています。これらの情報は信頼感や共感を深め、技術力や社会貢献などのブランドイメージも顧客に植え付ける効果を狙っていると考えられます。加えて、自社のビジョンや価値観を発信し、存在意義を明確にすることは、インナーブランディングとしても役立っています。(2)マーケティング事例 共栄精機引用:株式会社 共栄精機共栄精機は、機械加工や精密板金加工などの金属加工を行なっている会社です。「金属加工のコンビニエンスストアを目指して」を合言葉に、多種多様な加工見積もりに対して、最速で回答できるスピードを武器にしています。共栄精機は、Webマーケティングに積極的に取り組んでおり、見積もりするスピードで、他社との差別化を図っています。従来の金属加工業界では見積もりには数日の時間を要するのが一般的でした。しかし、その数日の間に競合他社への依頼が進むなどしてしまい、顧客を逃がす可能性が十分にあります。そこで、共栄精機では1時間以内に見積もりできる体制を整えることで、この課題を解決し、受注数を大きく伸ばしました。さらにスピード見積もりが実現したことで、「明日までに製品が欲しい」などの通常受けづらい注文を高単価で受注できるようになり、事業全体を成長させることができました。共栄精機の即日見積は、広告PRとは違った観点ではありますが、マーケティング施策の成功例といえます。4. ブランディングに関することは346へ本稿で解説した通り、ブランディングとマーケティングは、それぞれ異なる目的を持っているものの、共に企業が成長するために重要な活動です。ブランディングは一貫性のあるブランドイメージを形成し、企業や製品の価値を高めます。また、マーケティングは、顧客ニーズに応える製品・サービス開発や販売・宣伝活動を行い事業収益を創出します。「自社や製品のブランド価値を高めたい」「市場での競争力を向上させたい」という方は、弊社346にご相談ください。346にはデザインの専門性に加えて、製造業に関するブランディング・マーケティングの専門性を持ったメンバーが在籍しており、各企業が持つ価値や個性、そして特徴を深く理解し、それらを最大限に活かしたご提案が可能です。初回無料相談も行っているので、製造業に関するお悩みがあれば346までお問い合わせください。【参考文献】デ―ビット・アーカー『ブランド論』ダイヤモンド社、2014年上條憲二『超実践! ブランドマネジメント入門 愛される会社・サービスをつくる10のステップ』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年Wrriten by 346 inc. with Xaris株式会社346について 【会社概要】 会社名:株式会社346 本社:〒370-0059 群馬県高崎市椿町24-3(2F) 東京営業所:〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16 農工大・多摩小金井ベンチャーポート 202号室 (東京農工大学小金井キャンパス内) 代表者:三枝守仁 設立:2017年7月21日 URL:https://346design.com/ 事業内容: デザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業。グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)をはじめとし、国内外問わず多くの受賞実績を持つメンバーで構成され、大企業やスタートアップ企業向けの実績多数。企画、デザイン、設計、量産まで、製品開発にかかわる支援をワンストップで提供。デザインに関する解説記事身近なユニバーサルデザインの事例13選!珍しいケースや歴史もユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いもデザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説製品試作の製作と評価:品質を向上させるための試作品の基本プロセスと活用メリットプロダクトデザインの料金の相場は?内訳や事例、依頼時の注意点も解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説デザインレビューとは?目的や製品開発を成功に導く効果的な進め方を解説<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。