ハードウェアスタートアアップのデザイン戦略 第4回です。本コラムの第2~3回では、ハードウェアスタートアップの投資状況と投資観点を解説しました。 今回は、ハードウェアスタートアップに取組むにあたって、“ 具体的にどんな課題があるのか“について、開発フェーズに沿って明らかにしていきたいと思います。 ■ ハードウェアスタートアップの課題 下図は、企画・調査から上市に至る開発プロセスでハードウェアスタートアップが直面する主要課題を示しています。(課題は弊社調査に基づく代表例を記載しています。)ハードウェアスタートアップに取組むにあたっては、開発プロセスごとに様々な課題を乗り越える必要があることがわかります。 各課題については、以下にてさらに具体的に解説します。■ Phase1.シード調達までの課題1.市場規模の不足ハードウェアスタートアップは予てより取り組んでいた研究や要素技術を起点に創業するケースが多いです。この場合、市場ありきではなく、技術ありきの(いわゆるプロダクトアウト)起業になりがちな為、十分な市場がある技術適応先を見つけるのに苦労するケースが多く見られます。2.技術価値が伝わりづらい製品が市場に出た際の具体的なイメージを描けるか否かは、投資家含め事業のフォロワーを増やすためにも重要な要素です。しかし、特に研究や要素技術を起点にした創業の場合、創業メンバーが技術者に偏ることが多く、ビジネスケースやユースケースの設計とプレゼンテーションがチームとして不得手なケースが多く見られます。3.フィージビリティ(実現性)の不足資金調達の際には、そのチームでその製品やサービスが本当に実現できるのかが評価されます。ハードウェアは試作することに実費として大きな費用が掛かりますので、調達前の資金がない中で作成される原理試作では十分なフィージビリティを示すのが非常に困難です。また、初期メンバーの構成も同様に実現性を示すのに重要な指標ですが、スタートアップ業界内で人口の少ないハードウェアの専門家を見つけるのには苦労をします。■ Phase2.シリーズA調達までの課題4.なし崩し的な開発進行昨今のハードウェア開発の要件定義は、機械・電気・ソフトなどの技術領域だけではなく、サービスやサプライチェーンも含めた複合的な要求や制約を加味して進める必要があります。リソースや時間が少ない中で要件定義を進める必要がある為、往々にして要件があいまいなまま開発が進行してしまいます。これが結果的に手戻りや品質不良といったインパクトのある問題に発展します。5.試作回数の増加と遅延ハードウェアの試作検討はソフトウェアのそれよりも長い時間がかかります。試作が1度でも失敗したり、検証項目が漏れたりするようであれば試作回数を予定よりも増やさざる得なくなります。その場合は想定よりも大幅にスケジュールが遅延することになります。3Dプリンタの進歩などで簡素な部品製作は過去よりも早く実施できるようになりましたが、精度が必要な部品や樹脂部品以外の部品には対応できないため、状況は大きく変化していないといえます。6.量産性の欠如とコストアップ量産設計にあたっては、試作では想定できていなかった様々な課題が発生します。いわゆる「量産化の壁」といわれるもので、下記のようなケースが多々あります。・関係する会社が膨大になり、取引関係構築やコミュニケーションに多大な時間を費やす・生産ロットが不十分な為、適切な部品の調達が出来ないことが発覚する・当初コストの見積が甘く、コストが膨れ上がり価格設定を見直さざる得なくなる・遵守すべき法規制の見落としがあり、機能追加・追試験をせざる得なくなるこのような問題は技術力不足だけでなく、業界・サプライチェーンに対する知見不足によるものも多いといえます。7.キャッシュの枯渇量産化に近づくにつれて、必要な人員数や検証に必要な試作台数は増えていきます。これに伴い、製品開発に必要なキャッシュフローも激的に肥大化していきます。また、先に挙げた試作回数の増加や開発期間の長期化が進めば、財務状況はすぐにでも深刻なものとなっていきます。■ Phase3.量産以降の課題8.検証ボリュームの不足(PMFできてない)スタートアップの成功はPMF(Product-Market-Fit)できるかどうかにかかっています。PMFを進めるには実地検証や市場投下後の試行錯誤が重要です。しかし、ハードウェア製品の場合、量産後の製品改善やピボットが容易ではないことは明白です。それにもかかわらず、スケジュールや検証コストを要因として、十分なPMF検証ができないまま金型出図に踏み切らざる得なくなってしまうのが実態と言えます。9.模倣品の台頭製品の認知度が高まるほど、海外はじめとした安価な模倣品が出回る可能性も高まります。模倣品の販売を防ぐには、特許などを代表とする知的財産権を活用するのが一般的です。しかし、経験や資金の少ないチームの場合、十分な知財戦略をとることができず、模倣品に対して泣き寝入りせざる得ない状況になってしまいます。10.品質不良対応コストの増大万全の準備をしたとしても、初めて市場に出す製品のほとんどは市場で品質不良などのトラブルが発生します。品質部門、カスタマーサービス、ロジスティクスなど、十分な体制が構築されていない状態でリコール対応が発生した際には、膨大なコストをかけてこれを解決する必要に駆られます。 ここまで見てみると、ハードウェアスタートアップ課題は多義に渡り、成功には様々な専門スキルやノウハウが必要であることがわかります。次回は、これら課題に対してデザインがどのように貢献できるのかについて解説していきます。弊社株式会社346では営業・デザインリサーチャーを募集しています。興味関心がある方は是非下記よりお問い合わせください。https://346design.com/careers弊社株式会社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方は是非下記よりお問い合わせください。https://346design.com/contact* 参考文献: 1. Ben Einstein The Complete Guide to Building Hardware Startup Teams Part.2https://beneinstein.medium.com/the-complete-guide-to-building-hardware-startup-teams-part-2-contributors-product-9d93b431e4a7 2. イノベーション実践語録 なぜハードウェアスタートアップはハードなのかhttps://blog.indee-jp.com/576/