
多くの人の利便性に配慮したユニバーサルデザインには、取り組みの方向性を明確にするための7つの原則が提唱されています。7つの原則は、ロナルド・メイス氏をはじめとする建築家や工業デザイナー、技術者、環境デザイン研究者などによってつくられました。
この記事では、そんな7つの原則の概要やガイドライン、事例、ユニバーサルデザインとバリアフリーの違い、ユニバーサルデザインが必要な理由などについて解説します。
株式会社346
創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。
ユニバーサルデザインとは、加齢や障害の有無、性別の違いなどにかかわらず、すべての人にとって使いやすいデザインのことです。ユニバーサルデザインは、日用品や建物、街にある公共物など、さまざまな場所で取り入れられています。
バリアフリーとは、高齢者や障害者にとって障壁となるもの(バリア)を取り除く(フリーにする)ことを意味します。
ユニバーサルデザインは、バリアフリーと似ていますが、対象や考えの起点に違いがあります。
バリアフリーが主に高齢者や障害者を対象としているのに対し、ユニバーサルデザインは全ての人を対象としており、取り組む対象に違いがあります。
また、バリアフリーは、さまざまなデザイン(設計)において後から障壁を取り除く考え方です。しかし、ユニバーサルデザインは、はじめから全ての人にとって使いやすいデザインを検討します。このように「後から」「はじめから」という考えの起点においても違いがあります。
主な対象 | 考えの起点 | |
バリアフリー | 高齢者や障害者 | 「後から」障壁を取り除く |
ユニバーサルデザイン | (高齢者や障害者を含む) | 「はじめから」使いやさを検討する |
ユニバーサルデザインは1980年代に生まれた言葉ですが、「ノーマライゼーション」という似た考え方は1960年代からありました。ノーマライゼーションとは、身体障害や精神障害を持った人々でも、健常者と同じく通常通りの(ノーマルな)生活を送る権利がある、という考え方のことです。
ユニバーサルデザインの概念を提唱したのは、アメリカの建築家(プロダクトデザイナー)ロナルド・メイスです。幼少期の頃、車いすを利用する障害者だったロナルドは、「はじめから全ての人にとって利用しやすいデザイン」の必要性を訴え、ユニバーサルデザインの考えを広めました。
日本では1995年頃からユニバーサルデザインの考えが普及したといわれています。例えば、1994年に「ハートビル法」が施行され、多くの人が利用する建物(ビルなど)において高齢者や障害者が利用しやすい設計・デザインを施すことが義務付けられました。
なお、2006年に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」が施行され、それに伴い「ハートビル法」は廃止されました。
しかし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの際に「ユニバーサルデザイン 2020行動計画」が立案されるなど、ユニバーサルデザインを推進する流れは今も続いています(参考:ユニバーサルデザイン 2020 行動計画|首相官邸)。
ユニバーサルデザインでは、全ての人にとって使いやすいデザインをつくるため、以下の7つの原則が設けられています。
公平性|誰にでも公平に使える
自由度|利用するうえで自由度が高い
単純性|使い方が簡単ですぐにわかる
明確さ|必要な情報がすぐに理解できる
安全性|ミスや危険な事故につながらないデザインである
省体力|無理な姿勢をとることなく、少ない力で利用できる
空間性|アクセスしやすいスペースと大きさが確保されている
ここでは、それぞれの原則の定義やガイドライン(原則を守るための基本要件)、事例を紹介します(参考:ユニバーサルデザイン7原則|国立研究開発法人 建築研究所)。
1つ目の原則は「公平性」が高いことです。「公平性」が高いデザインとは、誰にでも公平に使うことができ、また簡単に入手することができるデザインのことです。
この1つ目の原則には以下のガイドラインが設けられています。
1a:誰もが同じ方法で使える。同じ方法で使えない場合も、利用者間で公平性が保たれている
1b:利用した際に差別感や屈辱感が生じない
1c:プライバシーや安心感、安全性を得られる
1d:利用者にとって魅力的なデザインにする
「公平性」が強く現れたデザインの事例としては、「自動ドア」が挙げられます。自動ドアは、ドアの開閉をする必要がなく、障害者や高齢者を含むすべての人が同じ方法で利用することができます。
2つ目の原則は「自由度」が高いことです。「自由度」が高いデザインは、利用者の好みや能力に合わせてさまざまな方法で使うことができます。
この2つ目の原則には、以下のガイドラインが設けられています。
2a:利用の仕方を選べる
2b:右利き/左利きでも使える
2c:正確な操作がしやすい
2d:スペースに合わせて利用することができる
「自由度」が高い事例としては、スマートフォンが挙げられます。スマートフォンには音声認識脳や画面拡大機能が搭載されており、利用者毎に使いやすいモードに切り替えて使用することができます。
3つ目の原則は「単純性」があることです。「単純性」とは、利用者の経験や知識などにかかわらず、利用方法が理解できるようにつくられているかどうかです。
この3つ目の原則には以下のガイドラインが設けられています。
3a.:不必要な複雑さがない
3b.:直観的にすぐ利用できる
3c:誰にでもわかる言葉や言い回しになっている
3d:情報が重要度の高い順番にまとまっている
3e:操作のためのガイダンスなどが効果的に提供されている
「単純性」が強調されたユニバーサルデザインの例としては、タッチパネル式の電灯スイッチを挙げることができます。ON・OFFを直観的に理解することができる単純な仕組みとなっており、前提知識の少ない子供でも簡単に操作方法を理解することができます。
4つ目の原則は「明確さ」があることです。「明確さ」とは、利用者の能力や知識にかかわらず、必要な情報が明確に伝わるようにつくられていることです。
4つ目の原則には以下のガイドラインが設けられています。
4a:絵や文字、手触りなど複数の方法により、大切な情報を伝えている
4b:大切な情報が強調されており、理解しやすくなっている
4c:必要な情報を口頭で指示しやすく、区別しやすい
4d:視覚、聴覚などに障害を持つ人に対しても情報がきちんと伝わる
「明確さ」が顕著に表れた事例としては、ピトグラムを挙げることができます。ピトグラムは、「絵文字」「絵単語」を意味する記号のことで、具体的にはトイレの男性マーク・女性マークなどのことです。文字を知らなくても大事な情報が理解できる記号となっており、さまざまな人に対して情報を伝えることができます。
5つ目の原則は「安全性」が高いことです。「安全性」が高いデザインとは、ミスや意図しない行動によって危険につながらないデザインのことです。
この5つ目の原則には以下のガイドラインが設けられています。
5a:危険やミスをできる限り防ぐ配慮がされている
5b:危険やミスがあったときには警告が出る
5c:間違っても安全が保たれる仕組みがある
5d:意図せず注意が必要な操作をしないように配慮されている
高い「安全性」を持つユニバーサルデザインの例としては、ノンステップバスがあります。ノンステップバスとは、バスの床面が非常に低く、乗り降りの段差が少ないバスのことです。高齢者や歩行が不自由な人など、乗降時に段差でつまづく恐れがある人達の危険を防ぐための配慮がされています。
6つ目の原則は「省体力」で利用できるデザインであることです。「省体力」で利用できるデザインとは、少ない力で使えたり、利用していて疲れないデザインのことです。
この6つ目の原則には以下のガイドラインが設けられています。
6a:自然な姿勢で使える
6b:あまり力を入れないで使える
6c:同じ動作の反復が必要ないように配慮されている
6d:身体に無理な負担が持続的にかからない仕組みがある
「省体力」で利用できるユニバーサルデザインの事例としては、センサー式の水道の蛇口が挙げられます。手をかざすだけで水が出る為、蛇口をひねる必要がありません。つまり、握力が弱い子供や高齢者、手に不自由がある人でも無理なく利用することができます。
7つ目の原則は「空間性」です。体格や姿勢、移動能力にかかわらず操作しやすいスペースなどが保たれていることも重要なポイントにあたります。
この7つ目の原則には以下のガイドラインが設けられています。
7a:立っても座っても重要なものが見えやすい
7b:立っても座ってもさまざまなものに楽に手が届く
7c:さまざまな手や握りの大きさに対応している
7d:補助具や介助者のためのスペースが十分に確保されている
「空間性」で優れた例としては、多機能トイレが挙げられます。多機能トイレとは、車いす利用者や乳幼児を連れた人などが使いやすいようにさまざまな機能が設けられている、広いトイレのことです。子供のおむつ替えをしやすくしたり、車いすで入りやすくしたりするため、通常よりも広いスペースが確保されています。
では、なぜこうしたユニバーサルデザインが注目を集めているのでしょうか。以下では、その理由を3つ解説します。
1つ目の理由は「少子高齢化が進んでいるため」です。
現在、日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少を続けており、総人口に対して占める高齢者の割合が増加し続けています。
(参考:統計が語る平成のあゆみ 1. 人口|総務省統計局)。
内閣府によると、2019年時点で総人口に占める65歳以上の人口の割合(高齢化率)は28.4%です。高齢化率は、1950年時点では5%以下で、1970年に7%、1994年に14%を超え、徐々に高まっています。この後も高齢化率は上昇を続ける見込みであり、2036年には33.3%、2065年には38.4%になると予想されています(参考:令和2年版高齢社会白書 第1章高齢化の状況|内閣府)。
この後も増えていく高齢者にとって暮らしやすい社会や仕組みをつくるには、ユニバーサルデザインの考えは欠かすことができません。
2つ目の理由は「障害者の権利を保障するため」です。
日本は、2007年に「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」を締結しています。同条約は、障害者の権利を実現するために国がすべきことを定めた国際条約のことです。主な内容としては、障害者に対する「合理的な配慮」を行うこと(障害者が困らないように周囲の人や企業が配慮を行うこと)や、バリアフリーを推進すること、教育や雇用、文化・スポーツにおいて障害者が差別されないようにすることなどが定められています(参考:障害者権利条約|外務省)。
すべての人にとっての使いやすさを目指すユニバーサルデザインは、障害者の権利を保証する観点でも重要な役割を果たします。
3つ目の理由は「外国人が増加しているため」です。
令和4年時点で、日本国内には296万人以上の外国人がおり(出典:令和4年6月末現在における在留外国人数について|出入国在留管理庁)、また総務省の国勢調査によると、外国人の人口が増加傾向にあることがわかります。
(出典:令和2年国勢調査-⼈⼝等基本集計結果からみる我が国の外国⼈⼈⼝の状況|総務省)
外国人のなかには、日本語を十分に身に着けていない人もいる為、そうした人にとっても暮らしやすい社会をつくるためには、前述したピトグラムのように「言語が異なる人でも必要な情報を得られる」デザインが必要になります。外国人が増加傾向にある日本社会にとって、ユニバーサルデザインは今後もさらに注目されていくでしょう。
SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年の国際サミットで採択された、全ての国に適用される国際的な目標のことです。「誰一人取り残さない」という理念のもと、17のゴールと169のターゲットから構成されています。
SDGsの「誰一人取り残さない」という理念は、全ての人に対して配慮を行うユニバーサルデザインの考え方と共通しています。また、以下のようなSDGsの個別のゴールとも深い関係があります。
表.ユニバーサルデザインに関係の深いSDGsの目標
目標4「質の高い教育をみんなに」 | 障害や年齢、性別、経済力などにかかわらず、すべての人が教育を受けられる社会をつくること |
目標10「人や国の不平等をなくそう」 | 性や年齢、障害、人種、階級などにおける不平等や、国内・国家間の不平等の撤廃を進めること |
目標11「住み続けられるまちづくりを」 | 包括的で安全で持続可能な都市・居住空間をつくること |
(参考:持続可能な開発目標|国際連合広報センター)
ユニバーサルデザインの推進は、上記の開発目標を達成するためにも必要な取り組みとなります。そのためユニバーサルデザインは、日本国内特有の文脈だけでなく、全ての国に適用されるSDGsの文脈においても重要なものだといえるでしょう。
ユニバーサルデザインはすべての人にとって使いやすいデザインをつくるために、7つの原則を設けています。これらデザインの原則は、少子高齢化や障害者の権利、外国人の増加など、日本における重要な問題を解決するうえで重要な指標となります。また、すべての国に適用されるSDGsを達成するためにも、ユニバーサルデザインは必要な考え方となっていくことでしょう。
したがって、今後さらに重要になっていくユニバーサルデザインを効果的に活用する為にも、まずはユニバーサルデザインの7つの原則の理解を深めてみるのはいかがでしょうか。
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