製造原価とは、製品を製造する際にかかった費用の総額のことです。この記事では、製造原価と売上原価の違いや、製造原価の計算方法、製造原価の算出メリット、活用する際のポイントなどについて解説します。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1.製造原価とは製造原価とは、製品を製造する際にかかった費用総額のことです。例えば、以下のような費用が製造原価に含まれます。製品の原材料費製造に携わる従業員の賃金製造拠点の家賃や光熱費製造にかかっている無駄なコストの把握・改善する為には、製造原価を正しく算出することが必要です。なお、製造原価は損益計算書(PL)の売上原価を構成する数字のひとつで、大企業などでは「製造原価報告書(CR)」としてまとめられます。(製造原価報告書とは、クライアントや投資家に対して、当期の製造原価を報告する目的で作成する財務諸表のことであり、損益計算書を補完する役割を持つものです。)(1)売上原価との違い売上原価とは、期中に売れた商品の仕入れや製造にかかった費用のことです。以下の計算式によって算出します。(期首の商品棚卸高)+(当期の商品仕入高)-(期末の商品棚卸高)売上原価と製造原価の違いは「まだ売れていない商品をコストに含めるか」にあります。売上原価では、売れた商品のコストだけを計上するため、在庫にある商品のコストは計上しません。しかし、製造原価では、在庫にある商品にかかったコストも含め、当期中に製造したすべての商品のコストを計上します。2. 製造原価を算出するメリット製造原価を算出すると、製造にかかった費用を正確に把握することができます。損益計算書(PL)を作成する際も会社で使った費用を算出しますが、損益計算書では、製造でかかった費用と営業にかかった費用が合算されるため、製造にかかった費用を知るには情報として不十分です。製造にかかる費用を算出すれば、製造部門で発生している無駄なコストなども正確に把握できます。結果として経営の改善につなげることもできるのです。3.製造原価の分類方法製造原価を算出する際は、2つの視点から、それぞれの費用を分類します。発生形態による分類直接費/間接費の分類(1)発生形態による分類1つ目の分類方法は、「発生形態による分類」です。何でかかった費用なのかは大きく3つに分けて分類できます。これより細かく分類する場合もありますが、少なくともこの3つの分類が行なわれます。分類費用の例①原材料費・製造する際に必要な材料費や燃料費、消耗品費、備品費など②労務費・製造する際にかかる人件費③その他経費・材料費と労務費以外の費用(2)直接費/間接費の分類2つ目の分類方法は、「直接費/間接費に分けて分類する」方法です。製造原価のなかには、製造にかかった金額が明確にわかる費用(直接費)と、どれだけかかったかの区分が難しい費用(間接費)があります。この2つを分けると、製造原価は、経営の改善点を検討する意味でさらに役立つデータとなります。例えば、前述した材料費・労務費・経費にかかる直接費には以下のようなものが挙げられます。分類費用の例直接材料費・製品の材料となる木材や鉄、ネジなどの費用など直接労務費・製品の組立を担当する従業員の賃金など直接経費・直接材料費と直接労務費以外の直接費一方で、どれくらい製造のために使用されたのか明確にわからない間接費には、以下のものが挙げられます。分類費用の例間接材料費・補助的に必要になる燃料などの費用間接労務費・生産管理や品質チェックを行う従業員の賃金など間接経費・製造拠点の光熱費や家賃4. 製造原価の計算方法製造原価を計算する際は、以下のプロセスが必要です。当期の材料費・労務費・経費の算出当期の総製造費用の算出当期の製品製造原価の算出(1)当期の材料費・労務費・経費を算出まずは「当期の材料費・労務費・経費」を明らかにします。当期の材料費を算出する際は、以下の計算式によって求めます。当期材料費 =(期首材料棚卸高)+(当期材料仕入高)-(期末材料棚卸高)注意点としては、前期末に残っていた在庫のコスト(=期首材料棚卸高)を加算していることです。このように製造原価には、在庫に残っている製品にかかったコストも含まれます。(2)当期総製造費用を算出次に、以下の計算式によって「当期総製造費用」を算出します(「総製造費用」と「製造原価」は異なります)。当期総製造費用=(当期材料費)+(当期労務費)+(当期経費)(3)当期製造原価を算出するそして最後に、「当期製品製造原価」を算出します。当期製品製造原価 =( 当期総製造費用) + (期首仕掛品棚卸高) – (期末仕掛品棚卸高)上記の「仕掛品」とは、製造途中の状態の製品のことです。仕掛品は製造原価に含めないので、期末に残った仕掛品のコストを差し引いて計算します。5. 方法別のさまざまな原価計算製造原価の計算方法は他にもあり、目的別に使い分けることをお勧めします。(1)標準原価計算|コストダウンのための原価計算標準原価とは、製品ごとの原価の基準となる目標値のことで、実際にかかっている原価と別で計算します。標準原価と実際の製造原価を比較することによって、無駄なコストがないか分析しやすくなります。コストダウンなどを目的として原価計算する際は、標準原価計算も行うことがあります。(2)見積原価計算|必要な予算を確認する原価計算見積原価とは、製品を新しく開発する際などに、どれぐらいの原価になるかの見積金額のことです。見積原価を基に、材料の仕入れや設備投資などを検討します。新製品開発の場面など、必要になる予算を確認したい時などに算出することがあります。6. 製造原価のデータを活用する際のポイント製造原価を算出する際に抑えておきたいポイントは2つあります。(1)原価管理システムの導入1つ目のポイントは、「原価管理システムの導入」です。上述したとおり、製造原価はいくつかのステップを経て計算されます。その作業の中で必要な情報が抜けてしまったり、計算ミスが生じたりする恐れもあります。原価管理システムを導入すると、ミスの発生を防ぎやすくなります。また、原価計算にあてる人員を省くことができ、業務全体の効率化にもつながります。(2)「無駄なコスト」の社内で共有2つ目のポイントは、製造原価の計算を通じて把握した「無駄なコスト」について社内で共有することです。そもそもの製造原価を算出する目的のひとつは、経営状況を把握し改善につなげることです。計算を通じて「無駄なコスト」がわかった場合、例えば以下のような対応をとります。作業の効率化によって人件費を抑える設備投資によって固定費を抑える人材育成などを通じて資材や燃料の無駄遣いを抑えるコスト削減の対応をする際は、従業員の協力・理解が必要な場合も多く「どんな無駄があるのか」「どれぐらい無駄が省けるのか」などの具体的な情報を社内で浸透させ、従業員の理解を得ることが重要です。また、削減する数値的な目標を立て、定期的に進捗を評価するとことも効果的です。製造原価の仕組みを理解することは重要製造原価は、製造部門のコストを把握するために必要なデータであり、経営上の改善点を発見するのに役立つものです。前述したとおり、人為的なミスを防ぐ意味でも、管理システムを利用して製造原価を算出するのがお勧めです。ただ、システムを利用する場合も、この記事で解説した、基本的な製造原価の仕組みについては理解しておきましょう。【商品開発・デザインにお困りの担当者様へ】 ・自社の要素技術を製品化したい… ・自社製品にデザインを取り入れたい… ・ハードウェアの設計者がいない… ・試作検証を短いサイクルで回したい…(株)346では、製品デザイン・設計支援を中心に総合的な支援を提供しております。デザインを取り入れ世界に技術を伝えていきたい、そんな企業様からのご相談もお待ちしております!製造業の経営に関する解説記事技術戦略とは?メリットや注意点、立案方法、導入事例を解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説その他の関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリー<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。346へのデザイン・製品開発依頼はCONTACTよりお問い合わせください。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。