新着記事はTwitterでご連絡いたします。下記URLから是非ご登録ください。Twitter: https://mobile.twitter.com/346design私は30年以上に渡りメーカーのデザイン部門でデザインマネジメントの業務に従事してきました。しかし、私が「デザインマネージメントに関わる仕事をしていました」と言っても、「それどんなことをやるんですか」と聞き返されることが多くあるように、その業務の具体的な内容はあまり知られていません。この記事ではプロダクトデザインにおけるデザインマネジメントの事について少しずつ紹介して行こうと思いますので、お付き合いください。筆者経歴株式会社346 デザインコンサルタント 我妻 亨37年間自動車会社のデザイン組織に勤務。内装デザインに6年間従事したのち、デザインのマネジメントの関わる業務に携わる。デザイン調査・企画、デザイン意思決定、デザイン総務、デザイン人材育成、課題解決などに従事。その間海外駐在、デザインコンサルタント会社出向、企画統括部異動など本体周辺部門での業務も経験。デザインマネジメントに道具(ツール)が必要なわけデザインマネジメントの道具(ツール)について説明します。ここでは特に「デザインを決める道具」に焦点を当てます。『デザインを決めるのに道具がいるの?』と思う方もいるかもしれません。以前書いたデザイン意思決定についての記事で説明した内容ですが、デザインは初めから完成品があるのではない事とデザインを決めるのはデザイン部門のメンバーだけではないということがポイントです。したがって、意思決定において不足している情報を補って精度の高いデザインマネジメント(デザイン意思決定)を行うために道具が必要となってくるのです。デザイン意思決定の場で見たいモノプロダクトデザインの現場で一番やりたい事は早く最終製品を確認したいということです。これはデザインを作る側(発想/提案する側)もデザインを決める側(意思決定する側)も同じ思いです。言い替えれば、今提案しようとしているアイディアに対してお客様が見て・買って・使ってどう思うかを知りたいということです。しかしプロジェクトスタートから製品の発表・発売までは時間がかかりますし、途中のマイルストンではまだ最終製品はできていないので意思決定には想像を働かせる必要が出てきます。この時間軸の差を埋める事とお客様目線により近づけることが意思決定の場におけるデザインマネジメントの道具に求められている事です。フルサイズレンダリング/かつての意思決定ツール本記事では著者が長く務めたクルマ業界のデザインを例に取り上げます。クルマのデザインは対象とするものが大きいため、初めからフルサイズのモデルをアイディアごとにたくさん作ることはできません。2次元表現→スケールモデル→フルサイズモデルというように段階的に精密度を上げてゆきます。デザインを作る側としては初めの段階における紙とペンによる2次元表現としてのスケッチやレンダリングの延長としてフルサイズレンダリングという技法を活用していました。今から約40年ほど前に主流だった技法です。フロントビュー、サイドビュー、リアビューの3面を実物大で描きます。柔軟性のあるチャートテープでラインを引き、エアブラシで面表現を加えていきます。車両レイアウトやパッケージングの条件を加味し実物大でどんなアピアランスになるのかを提案側も意思決定側も理解しやすくなるツールでした。主に行われたのはスケールモデルの意思決定のフェーズでした。スケールモデルによって3次元での形態の特徴を表現しフルサイズレンダで実物大の持つ存在感を確認することができました。フルサイズ投影/現在の意思決定ツールディジタル技術が発達することでデザインを作るツールもデザインを決めるツールも大きく変化しました。一言で言えばデータをベースにしてデザインを進捗させるという事です。デザイナーのスケッチも3次元データ化されます。そこで何ができるようになったかというと、早期にアイディアを実物大で且つ立体的に確認できるようになったということです。フルサイズレンダリングではフロント、サイド、リアは独立したビューなのでいくら実物大といっても想像を働かせて頭のなかで立体化しなければなりませんでした。それがディジタル技術が進むことで、各ビューを継ぎ目なしに見ることができるようになりました。あたかもターンテーブルにクルマが乗っているかのような表示が可能になり、視点を上げたり下げたり、近づいたり離れたりした時の見え方も再現できるようになりました。この技術の延長でデザイン中のアイディアを町の中で走らせたり、競合車と並んで走らせたりすることも可能になりました。最新のビデオゲームのような世界がカーデザインの現場で行われているのです。このような技術のおかげでモノはなくともデザインをリアルタイムに確認/評価することができるようになりました。そしてもう一つ重要な技術革新がデザインの現場を支えています。それは表示機器の技術革新です。クルマは軽自動車クラスでも全長約3m、アメリカ向けのフルサイズピックアップトラックでは全長約6mの大きさがあります。これを実物大で見られる画面が必要なのです。それもフロントクオータービュー、サイドビュー、リアクオータービューの3面を同時に映したり、競合車と並べて映したりすることもあります。まさに映画館並みのスクリーンが設置されていて、その前で意思決定者が論議をしているのです。出展:日経クロストレンドhttps://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00053/インテリアデザインでのVR活用ディジタル技術の活用はエクステリアデザインの領域だけでなくインエリアデザインの領域でもデザイン確認/意思決定の方法に変化を及ぼしています。VRを使うことで3次元モデリング前のインテリアデザインの確認ができるようになりました。VRゴーグルを装着することで検討中のインテリデザインの中に身を置くことができます。頭を左右に動かせば、左右の空間のデザインを確認できますし、ドアを開けて運転席に乗り込む際の見え方も体験することもできます。ディジタル技術の革新はエクステリアデザイン以上にインエリアデザインの意思決定の風景を変えました。参加メンバーはVRゴーグルを装着してそれぞれの椅子に座ったまま頭を左右に動かしているのです。でも見えているものは同じデザイン提案という状況です。出展:日経クロストレンドhttps://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00053/出展:NISSAN CROSSING VR Design Talkhttps://www.youtube.com/watch?v=Zw3hRMUwH_A最後に/変わった事と変わらない事ディジタル技術が進歩することでデザインのプロセスは大きく変わってきました。今回はデザイン意思決定のツールがどうなっているのかに焦点をあてて紹介しました。デザインを作るツール以上にデザインを決めるためのツールや意思決定の場の景色の変化は大きく感じます。社内のネットワークとセキュリティが整備されれば、デザインの現場に行かなくても、いつでもどこでもデザインを確認できるようになると思います。しかし一方、フルサイズのモデルを作ることは続くと思いますし、実物を前にしながら関係する部門とFace to Faceで論議することは相変わらず最重要な意思決定の要素です。最終的にお客様が見るものは現実の3次元の物体ですから。(注1) すべての企業がここに書かれているとおりのことを実施しているとは限りません。企業の歴史や業態によっていろいろな違いがあることをご了承ください。(注2) ある製造業のインハウスデザイン組織についての記述ですが、秘匿にかかわる事例は避け、現時点で共有できる範囲にとどめてあります。【商品開発・デザインにお困りの担当者様へ】 ・自社の要素技術を製品化したい… ・自社製品にデザインを取り入れたい… ・ハードウェアの設計者がいない… ・試作検証を短いサイクルで回したい…(株)346では、製品デザイン・設計支援を中心に総合的な支援を提供しております。デザインを取り入れ世界に技術を伝えていきたい、そんな企業様からのご相談もお待ちしております!関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリー<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。346へのデザイン・製品開発依頼はCONTACTよりお問い合わせください。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。<連載メディアを募集しています>弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。