新着記事はTwitterでご連絡いたします。下記URLから是非ご登録ください。Twitter: https://mobile.twitter.com/can_knowデザインエンジニア概論第5回です。前回はデザインエンジニアの起用メリットについて説明し、デザイナーとエンジニアのすり合わせ作業短縮が主要なメリットの一つであることについて触れました。今回はこのすり合わせ作業に関する深堀と、すり合わせを必要としないデザインエンジニアの思考方法について解説していきます。目次・ ”すり合わせ” でつくるブランコ・ ”デザインエンジニア思考” でつくるブランコ・ ギャップを解消するデザインエンジニア”すり合わせ” でつくるブランコ製品開発の場においてデザイナーとエンジニアではどのようなすり合わせが行われるのでしょうか。開発プロジェクトにおける認識齟齬の例え話としてよく引き合いに出される「Tree Swing Cartoon Pictures(ブランコの風刺画)」のオマージュで説明します。下図はデザイナーとエンジニアのチームが顧客要求にしたがって、ブランコを開発したケースを示しています。以下より、4つの絵についてそれぞれ解説していきます。顧客要求顧客からは庭の木に遊具(ブランコ)をつくってほしいと依頼がありました。遊具をつくるにあたっての顧客の要求は以下の3つです。”スタイリッシュ”なブランコであること子供が使っても”安全”であること設置費用が”低価格”であること依頼を受けたエンジニアとデザイナーはそれぞれ検討項目を分担してブランコを開発することにしました。デザイナーの提案デザイナーは顧客要求のひとつである”スタイリッシュ”について検討を進めます。しかし、検討するにあたって”スタイリッシュ”という言葉はあまりにもあいまいです。そこで、デザイナーは以下の要素を意匠にまとめることで、”スタイリッシュ”という要求に応える提案を作成しました。ブランコをつるすロープを目立たせないように細くするシンプルさをはばかる余計な要素を入れない高級感あるクッションを座面に使用する(座り心地も向上)エンジニアの提案エンジニアは”安全”と”低価格”の2つ顧客要求について検討を進めます。”安全”であるということはブランコを使用している最中にロープがきれたり、木の枝が折れたりしないことであるとエンジニアは考えました。また、”低価格”の要求に対しては具体的な価格設定を顧客と事前合意し、その中で収まる原価設定をしました。以下にエンジニアの提案をまとめます。使用中にロープが切れないように、太いロープ3本で座面を吊るす使用中に枝が折れないように、補強材を設置入手しやすい材料を積極的に使用し、原価設定に費用を収める成果物最終的な成果物を作成するにあたっては、デザイナーとエンジニアの提案を1つにまとめる必要があります。2つの提案にはいくつかのギャップがありますので、このギャップを埋める作業が「すり合わせ」です。すり合わせの際にはデザイナーとエンジニアで以下の議論が行われました。(ロープについて)デザイナー「ロープが目立っていてはスタイリッシュでない」エンジニア「じゃあ、ロープを2本に減らそう」デザイナー「これではあまりにも無骨なので何か提案してもらえないか」エンジニア「じゃあ、ロープが目立たないように黒くするくらいならできる」デザイナー「(今よりはましか)…ではそれですすめよう」 (補強について)デザイナー「補強材を無くすことはできなか?」エンジニア「補強材が無いのはあまりにも危険なので無理」 (座面について)エンジニア「こんな高価な座面は使えない。」デザイナー「ここだけはどうしても譲れない。これでなくては普通のブランコだ」エンジニア「背もたれを無くせばターゲットコストに収まる」デザイナー「要求は理解した。少し考えさせてほしい」エンジニア「承知した。とりあえず、背もたれ無しを暫定案としておく」…納品期日により議論終了時間切れにより議論半ばで成果物が仕上がりましたが、顧客要求に従ってつくられた成果物であることは間違いありません。しかし、この製品が顧客を満足させられるのかは不明です。"デザインエンジニア思考" でつくるブランコ次に同様のケースをデザインエンジニアが取組んだ場合を説明します。下図はデザインエンジニアが顧客要求にしたがって、ブランコを開発したケースを示しています。以下より、絵についてそれぞれ解説していきます。顧客要求顧客要求は先ほどと同じです。”スタイリッシュ”なブランコであること子供が使っても”安全”であること設置費用が”低価格”であることデザインエンジニア思考デザインエンジニアは”スタイリッシュ”、”安全”、”低価格”の3つ顧客要求を同時に検討します。この時、デザインエンジニアは頭の中では、先ほどデザイナーが持っていた考え(デザイナー思考)とエンジニアが持っていた考え(エンジニア思考)をいったり来たりしながらものごとを考えます。この場ではこれをデザインエンジニア思考と称します。デザイナー思考デザイナー思考では、主に"スタイリッシュ”の要求について考えを巡らせたり、さらには要求にはない要素を加えることでより質の高い体験を顧客に提供できないかなどを考えます。結果、以下の内容を開発で考慮することに決めました。座面が主役のプロダクトにする座面に付加価値を持たせる非常に抽象的ですが、デザインエンジニアはデザイナー思考だけで提案を固めません。自身が応じるべき全ての要求について考えていないことを知っているからです。エンジニア思考エンジニア思考では、主に”安全”、”低価格”の要求について考えを巡らせます。結果、以下の内容を開発で考慮することに決めました。使用中にロープが切れてはいけない使用中に枝が折れないように補強が必要原価設定に費用を収めるデザイナー思考同様に、デザインエンジニアはエンジニア思考だけで提案を固めません。成果物最終的な成果物を作成するにあたっては、先に挙げた内容を1つの成果物にまとめる必要があります。デザインエンジニアが成果物を作成するにあたっては、以下のような論理展開がされました。(ロープについて)できる限りロープを目立たせたくない安全性担保に最低限必要なロープ2本で座面を吊るそう (補強について)枝の強度を増す為に補強が必要だできる限り目立たないような形で補強しよう (座面について)座面に特徴的かつ付加価値をつけたいが、原価に余裕はない1部品でひじ掛けと背もたれをつけよう以上をもってデザインエンジニアの成果物は作成されました。このケースの成果物も先ほど同様、顧客要求に従ってつくられた成果物です。”ギャップ”を解消するデザインエンジニア今回のケースでポイントとなるのは、デザイナーとエンジニアで開発したケースと、デザインエンジニアが開発したケースでは、顧客要求が同じにもかかわらず最終的な成果物が異なることです。両ケースの成果物を比較すると、デザインエンジニアの開発した成果物の方がまとまりがあり、バランスが良いように見えます。つくるものが一つにも関わらず、デザイナーとエンジニアにはそれぞれの「制約」や「要件」が存在し、これらの”ギャップ”が両者の分断と成果物のちぐはぐを生み出す要因です。一方、領域横断的な思考ができるデザインエンジニアがチームにいる場合は、”ギャップ”の少ない検討が可能です。これは、前回解説した開発期間の短縮メリットと合わせて、デザインエンジニアの起用によって期待される効果の一つです。次回は、先にあげたハードウェア開発で重要な考え方「制約」と「要件」について解説していきます。関連記事デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」デザインエンジニア概論 第2回 「ハードウェア開発とは」デザインエンジニア概論 第3回 「デザインエンジニアの専門性」デザインエンジニア概論 第4回 「デザインエンジニアの起用メリット」<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザインエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。<連載メディアを募集しています>弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。参考文献1.Tree Swing Cartoon Pictureshttps://www.businessballs.com/amusement-stress-relief/tree-swing-cartoon-pictures-early-versions/ー