ものづくり補助金とは、中小企業が行う製品開発や生産性向上の取り組みなどに対し、750万円~5,000万円程度(補助率1/2もしくは2/3)の支援を行う補助金です。この記事では、補助金の活用経験があり、製品開発の専門家である筆者が、ものづくり補助金について解説します。各期の詳細内容は公募要綱を参照頂ければと思いますが、応募にあたって気になるであろう申請対象や条件、補助金額、申請時のポイント、具体事例などについてわかりやすく解説しているので参考にしてください。なお、筆者の会社でも、ものづくり補助金を活用しており、新製品の開発に伴うシステム導入や試作費用に対しての補助を受けています。申請書類の作成も自社内で全て実施していますので、公募要項には載っていない、申請資料を作成した当事者としての目線も踏まえて解説致します。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1. ものづくり補助金とはものづくり補助金とは、中小企業が行なう製品開発や生産性向上の取り組みなどに対し、750万円~5,000万円程度(補助率1/2もしくは2/3)の支援をもらえる補助金制度です(正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」)。なお、ものづくり補助金は中小企業庁及び独立行政法人中小企業基盤整備機構によって実施されています。「ものづくり」という言葉が含まれていますが、製造業を含む全ての業種で申請することができます。例えば、以下のような取り組みに対して支援を受けられます。新商品の試作品の開発新サービスの立ち上げ新しい生産ラインの構築知的財産権を取得専門家・兼業人材の活用具体的な補助上限額は、750万~5,000万円ほど、その補助率は1/2~2/3となります。上限額や補助率は、従業員数や、要件によっても異なります。ものづくり補助金を利用すれば、製品開発や業務改善にかかる経済的な負担を軽減することができます。(1)対象となる事業者ものづくり補助金の対象者は、おおまかにいうと、①「申請時に創業済み」である、②「従業員数が一定数以下の中小企業(個人事業主も含む)」になります。以下が詳細な対象者になります。※詳細な条件についてはものづくり補助金の募集要項を確認してください※「中小企業等経営強化法」の詳細についてはこちらで確認することができますなお対象者は、それぞれの組織形態によって資本金や従業員数などの規定が異なります。そのため申請を検討する際は公募要領をよく確認しましょう。(2)基本的な要件ものづくり補助金は、枠ごとに対象となる事業の実施期間が定められており、その期間内で発注や納入、検収、支払いなどの事業手続きを完了させなければなりません。また、賃金及び事業計画に関しては、以下の要件を全て満たした3~5年の事業計画を策定する必要があります。事業計画期間内に給与支給総額を年率平均1.5%増加させる事業計画期間内は、事業内最低賃金を「地域別最低賃金 + 30円」以上の水準にする事業計画期間に、事業者全体の付加価値額(営業利益・人件費・減価償却費をあわせた額)を年率平均3%以上増加させる基本要件を満たせなかった場合には、補助金の返還義務が生じる場合もあります。返還義務が発生しないケースや、基本要件が異なるケースもあるので、詳しくは公募要領をご確認ください。(3)枠別の補助金額・補助率ものづくり補助金には5つの「枠」があり、自身の事業に沿った枠を選択する必要があります。それぞれ目的や補助金額、補助率などが異なり、枠によっては「追加要件」があるので注意して確認する必要があります。枠ごとの補助金額や補助率は以下のとおりとなります。※グリーン枠の場合、枠内でさらに事業が分類され、それぞれ要件や補助金額が異なります。2. ものづくり補助金の申請方法具体的な申請方法について以下の2点を解説します。申請スケジュール必要書類(1)申請スケジュール(2023年度版)ものづくり補助金の申請スケジュールは、応募・審査・交付申請・事業実施期間の4ステップに分けられます。応募期間:2カ月ほど審査期間:1カ月半ほど交付申請期間:1カ月半ほど事業実施期間:10カ月以内令和5年度~令和6年度のスケジュールとしては、以下のとおりです。(引用:スケジュール|ものづくり補助事業公式ホームページ)(2)必要書類ものづくり補助金の申請に必要な書類は、以下のとおりです。申請する枠によって必要書類が異なるので注意しましょう。必要書類のうち、最も準備が大変なのが事業計画書です。事業計画書には、当該事業の優位性や効果などを明確に記述する必要があります。(引用:ものづくり・商業・サービス補助金 公募要領 概要版|ものづくり補助金事務局)3. 申請時のポイントものづくり補助金を申請する際の以下3つのポイントについて解説します。「GビズIDプライムアカウント」の準備評価基準を抑える加点項目の考慮減点項目の考慮(1)「GビズIDプライムアカウント」の準備2023年現在、ものづくり補助金は申請から支払いまでの全ての手続きにおいて電子化されており、専用のデジタルアカウントが必要になります。「GビズIDプライムアカウント」とは、ものづくり補助金の電子申請に必要なアカウントであり、企業が行政サービスを利用する際の認証システムです。こちらの「gBizID」というサイトから、アカウントを作成ができます。なお、このアカウントは他の補助金の申請でも利用できる場合があります。(2)評価基準を抑えるものづくり補助金は申請者が多く、倍率も高い補助金です。したがって、公開されている評価基準にのっとって申請書類を作成し、少しでも採用確度を上げることに努めることが重要です。評価基準は、大きく分けて「技術の観点」「事業化の観点」「政策の観点」の3点です。それぞれの細かな評価基準については、以下のとおりです。特に事業計画書を作成する際には、評価基準と照らし合わせながら作成することを心がけましょう。見出しの構成なども評価基準に揃えて作成すれば、審査員からも読みやすくなり、評価基準に該当する項目を見逃しずらくなるはずです。(3)加点項目の考慮ものづくり補助金には、四つの加点項目があります。これら加点項目を踏まえて申請書類を作成すればさらに採用されやすくなります。成長性加点政策加点災害等加点賃上げ加点①成長性加点ものづくり補助金では、事業の成長性を測る指標として、中小企業庁による「経営革新計画」の認定の有無を審査しています。経営革新計画とは、中小企業が経営課題の解決に取り組むための計画のことで、中小企業庁の経営革新支援事業の支援を受けるために作成するものです。経営革新計画が認定されると、融資や税制優遇などの支援を受けることができ、またものづくり補助金の審査においても優遇されます。②政策加点「政策加点」は、創業(第二創業)から5年以内の事業者や、パートナーシップ構築宣言を行っている事業者、定められた基準を満たす再生事業者など、合計で9つの条件を満たす事業者が対象となります。細かく条件が指定されているので、まずは自社の該当有無を確認しましょう。③災害等加点「事業継続力強化計画」の認定を受けていると、「災害等加点」が加算されます。「事業継続力強化計画」とは、中小企業の防災・減災に関する対策計画のことで、経済産業大臣によって認定されるものです。認定を受けると、税制措置や補助金申請における加点などの優遇措置があり、ものづくり補助金においても有利となります。④賃上げ加点等ものづくり補助金の申請では、前述のとおり、賃上げに関する要件を必ず満たす必要があります。必須である基本条件以上の水準で賃上げなどを行う場合、「賃上げ加点等」の項目で加点となり、審査で有利となります。賃上げ加点がもらえる条件の一例としては以下のとおりです。(4)減点項目の考慮ものづくり補助金には2つの減点項目があります。①過去のものづくり補助金交付実績過去3年間でものづくり補助金の交付を受けている場合です。なお、過去3年間で2回以上交付を受けた場合は、申請を行うことができません。②繰越欠損金による課税所得の控除「回復型賃上げ・雇用拡大枠」を申請する場合に、繰越欠損金によって課税所得が控除されているケースです。この控除によって「回復型賃上げ・雇用拡大枠」に定められた追加要件をクリアしている事業者は、減点対象となります。4. ものづくり補助金の活用事例ものづくり補助金はどのように活用されているのでしょうか。以下では、公式に発表されている成果報告をもとに、事例を3つご紹介します(参考:成果事例のご紹介|ものづくり補助事業公式ホームページ)。(1)有限会社横山鉄工有限会社横山鉄工は、業務用バームクーヘン製造機械のメンテナンス事業などを行っている企業です。メンテナンス業務を行う中で、国内で流通するバームクーヘンオーブンの多くが中規模~大規模生産向けであることに気づき、小ロット専用のオーブンを開発・販売する事業をスタートしたといいます。横山鉄工では、この小ロット生産向けバームクーヘンオーブンを開発するため、2013年にものづくり補助金を導入しました。オーブンの開発が終わり、販売を開始しましたが、はじめは国内での売り上げが思うように伸びなかったそうです。そのため、海外独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外展開支援なども利用し、中国企業などとの海外取引を重ねました。その結果、売上高を伸ばすことに成功し、ものづくり補助金の利用前は約4,000万円だった売上高は、約7,000万円まで伸長したといいます(参考:ものづくり・商業・サービス補助金成果活用グッドプラクティス集(令和2年度) p.4~5|中小企業庁)(2)株式会社新盛インダストリーズ株式会社新盛インダストリーズは、ラベルプリンターや、ハンドラベラーなどの製造・販売を行ってきた企業です。しかし、主製品の市場全体が成熟し、新たな事業を立ち上げなければならない状況に直面していました。アイディアを模索するなかで、小型インクジェットプリンタの製造・販売を行う新事業を立案。その開発費として、ものづくり補助金を利用しました。開発では、顧客が受け入れやすい価格になるよう機能を限定するなど工夫をこらしたそうです。3年間の試作品開発期間を経て、小型インクジェットプリンタ「DiPO(ディポ)」が完成。ターゲットとして設定したお茶(製茶)業界を中心に、売上を伸ばすことに成功しました(参考:ものづくり・商業・サービス補助金成果活用グッドプラクティス集 2019-2020 p.26~27|中小企業庁)。(3)株式会社オフィス・ラボ株式会社オフィス・ラボは、高齢者向けの福祉家具の仕入れ販売などを行う企業です。日本社会の高齢化が進み、福祉家具の需要が高まったことで、成長軌道に乗っていたオフィス・ラボ。自社ユーザーの声を基に、オリジナル家具の製造・開発を行うため、ものづくり補助金を申請しました。ものづくり補助金の資金を3Dプリンタに充てた結果、試作コストを50%程度削減することができ、また試作期間の削減にもつながったといいます。要介護者の声に応えて開発した「ピタッとチェアEX」は、NHKや大手新聞社、業界専門誌などで取り上げられるなど注目を集め、多くの受注を獲得しているそうです(参考:ものづくり・商業・サービス補助金成果活用グッドプラクティス集(平成31年版)p.48~49|中小企業庁)。5. 申請のデメリットや注意点ものづくり補助金の申請には、デメリットや注意点もあります。特に以下の点には注意をして申請を進めましょう。申請前・後に時間や手間がかかる助成金は後払いになる助成対象は1年目のみ(1)申請前・後に時間や手間がかかるものづくり補助金は、申請するために多くの時間や手間がかかります。例えば、以下のような事務手続きが発生します。対象となる事業の期間中の「遂行状況報告」の提出(必要に応じて補助金事務局の担当者が中間監査にきます)補助事業の終了後に「実績報告」の提出る事業終了後5年間は補助金の使途について「事業化状況報告」を提出なお、監査が入った時の説明や報告書の作成のためには、領収書や契約書などを整理しておく必要もあるため、これらの収集管理をする担当を1名以上用意しておくことをお勧めします。事業終了後も、長期間、事務手続きが発生する点も見落としがちですので留意しましょう。(2)補助金は後払いで振り込まれるものづくり助成金は後払いで振り込まれます。そのため、補助率1/2で補助金500万円をもらう場合、補助金の入金前に一度総額である1,000万円を自社で持ち出す必要があります。したがって、振り込まれるまでのタイムラグに留意して資金繰りの計画を立てなくてはいけません。(3)補助期間は1年間ものづくり補助金の補助期間は1年です。そのため、例えば新型設備を導入して工場を拡張した場合、その後の家賃や人件費などの固定費が増加しても、それらの費用は補助対象外となります。ものづくり補助金を利用すれば該当年の設備投資の負担が減りますが、設備は補助期間以降も使用するのが当然ですので、補助期間以降の計画にも十分留意して補助を受けることをお勧めします。新商品開発にお悩みなら346へものづくり補助金を使えば、新製品開発や業務効率化を行う際に経済的な支援を受けることができます。しかしここまで解説したとおり、申請や報告のために多くの時間や手間がかかりますし、補助金の活用方法を検討すること自体にも慣れない方々も多いと思います。その労力を無駄にしないためにも、しっかりと事業計画を固めることに努めましょう。弊社346は、製造業に特化し、様々な専門家を有するメンバーで構成された組織であり、新商品開発やその計画作成の支援を行っています。企画だけでなく、製品開発全域にわたる総合支援を行っており、調査、試作開発、量産製造など、製品開発に関する様々な課題をサポートいたします。「新規事業の計画の立て方がわからない」「どのように製品開発すれば良いのかわからない」「ものづくり補助金で自社製品のデザインを良くしたい」「革新的な製品を創出したい」というようなお悩みがあれば、ぜひ346にお問い合わせください。関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリー<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。Wrriten by 346 inc. with Xaris