ユニバーサルデザインは、年齢、性別、文化、身体の状況など、人々が持つさまざまな個性や違いにかかわらず、誰もが利用しやすい製品やサービスの提供を目指す考え方です。ユニバーサルデザインは、私たちの身近なところで取り入れられているのをご存じでしょうか?この記事では、ユニバーサルデザインの定義と原則、歴史、事例について解説しますプロダクトデザインに関するお悩みは346にご相談ください弊社346は、製造業に特化し、様々な専門家を有するメンバーで構成された組織であり、新商品の企画・設計・試作の支援など、製品開発全域にわたる総合支援を行っています。346の支援実績を見る 「新商品開発の依頼先がたくさんあってコミュニケーションが大変...」「どの部品をどの加工方法でつくればいいかわからない...」そんなお悩みのある方はぜひ、資料請求ページからお問い合わせください。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1. ユニバーサルデザインとはユニバーサルデザインとは、身体的な制限や認知的な障害の有無、性別・年齢などの違いにかかわらず、誰にとっても利用しやすいデザインのことです。ユニバーサルデザインは、街の中のドアや信号機、多くの人が触れる公共設備、普段使っている製品など、知らず知らずのうちにあらゆる場面で取り入れられています。(1)ユニバーサルデザインの7原則ユニバーサルデザインは、取り組みの方向性を明確にするための7つの原則が設けられています。この原則は、ユニバーサルデザインを提唱したロナルド・メイスをはじめとする、建築家や工業デザイナー、技術者、環境デザイン研究者などによってつくられました。公平性:だれにでも公平に利用できること 自由度:利用する上で自由度が高いこと 単純性:使い方が簡単でわかりやすいこと 明確さ:必要な情報がすぐ理解できること 安全性:うっかりミスや危険につながらないデザインであること 省体力:無理な姿勢をとることなく、小さい力で楽に利用できること 空間性:アクセスしやすいスペースと大きさを確保することこれらの原則を抑えることで、ユニバーサルデザインは、全ての人にとって使いやすいデザインとなります。関連記事:ユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いも(2)バリアフリーとの違いユニバーサルデザインとバリアフリーは互いに深い関係を持っていますが、異なるものです。バリアフリーとは、障壁(=バリア)を取り除く(=フリーにする)という意味であり、身体的な障がいを持つ人々や高齢者にとって利用しやすい設計や改修を行うことです。一方、ユニバーサルデザインは、障がい者の人々や高齢者を含む、誰もが快適に利用できるデザインを目指したデザインを目指します。そのため、ユニバーサルデザインにおいては、障がい者や高齢者だけではなく、LGBTQなどセクシャルマイノリティの人々にとっても利用しやすいデザインを検討するといった視点も必要になります。例えば、男女問わず入れる新たなパブリックトイレはユニバーサルデザインの取組の代表例です(参考:多様なセクシュアリティ-LGBT-心地よく使えるパブリックトイレとは?|TOTO)。その意味で、ユニバーサルデザインは、障害者の人々や高齢者だけではなく、さらに幅広い人々の利用しやすさを考えるデザインだといえます。(3)ユニバーサルデザインの歴史ユニバーサルデザインは、1980年代にアメリカの建築家ロナルド・メイスによって提唱され、始まりました。その源流となる考えはデンマークで生まれた「ノーマライゼーション」だといわれています。ノーマライゼーションとは、1963年にデンマークを中心に提唱された考えで、「障害を持った人でも健常者と同じようにノーマルな生活(普通な生活)を送る権利がある」という思想です。前述したロナルド・メイスは、ノーマライゼーションを元にしたバリアフリーを批判的に検討し、ユニバーサルデザインを考案しました。幼い頃、自身も車いすを利用していたロナルドは、障害者をバリアフリーで特別扱いすることに疑問を抱き、「はじめから全ての人々にとって使いやすいデザインをつくる」ことが重要だと考えたのです。日本でも1995年頃からユニバーサルデザインの考えが普及し、1994年に「ハートビル法」が施行されました。ハートビル法とは、銀行やホテルなど多くの人が利用する建築物で高齢者や障害者の人々が利用しやすいデザインを施すことが義務付けられた法律です。※2006年のバリアフリー法(「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)の施行に伴い、現在、ハートビル法は廃止されています。参考:建築物におけるバリアフリーについて|国土交通省)。その後、2005年に国土交通省が「ユニバーサルデザイン大綱」を発表したり(参考:「ユニバーサルデザイン政策大綱」について|国都交通省)、東京オリンピック・パラリンピックの際に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が立案されたり(参考:ユニバーサルデザイン 2020 行動計画|首相官邸)するなど、国内でもユニバーサルデザインに関わる様々な取り組みが行われてきました。2. 「街」にあるユニバーサルデザインユニバーサルデザインは街中で実践されています。以下で具体例を紹介します。(1)自動ドア自動ドアは、ユニバーサルデザインの中でも最も一般的で身近なものです。自動ドアは自分の力でドアを開閉する必要がないため、身体に障害を持つ人や荷物を持った人、小さな子供を抱えた人でも同じように利用することができます。様々な人にとって使いやすい自動ドアは、ユニバーサルデザインの最も身近な例のひとつだといえます。(2)ピトグラムピトグラムとは、「絵文字」や「絵単語」を意味する図形記号のことで、ユニバーサルデザインにおいてよく用いられています。具体的には、トイレの男性マークや女性マーク、出口を示すマークが挙げられます。ピトグラムは、文字を知らなくてもその意味を理解できる記号です。国や地域によってデザインが異なるものもありますが、言語を介さずに意味を伝えられる点で、ピトグラムは様々な人とって理解しやすい記号であり、ユニバーサルデザインの代表的な事例だといえます。(3)音響式信号機(歩行者用ボタン)音響式信号機とは、音声や鳥の鳴き声、音楽などで青信号に変わったことを知らせる信号機のことです。視覚に障がいを持つ人や、色覚異常の人でも信号の変化がわかるように開発されました。また、信号機のなかには、歩行者用ボタンがあるものもあります。歩行者用ボタンは、高齢者や小さな子どもなど、素早く道路を横断するのが難しい人々でも横断しやすいよう、ボタンを推した際には青色の時間が長くなるよう設計されています。こうした配慮がされた信号機もまたユニバーサルデザインの一種にあたります。3. 「家」にあるユニバーサルデザインユニバーサルデザインは、家のなかの日常生活で使われる製品にも取り入れられています。(1)シャンプーの容器シャンプーの容器にもユニバーサルデザインが取り入れられています。シャンプーの容器の頭部には突起が取り付けられていますが、リンスの容器にはありません。このように突起を取り付けることによって、泡で目が見えないような状況でもシャンプーとリンスの区別がつき、また視覚に障がいを持つ人でもシャンプーとリンスの違いがわかるようになります。(2)照明のスイッチ照明のスイッチのなかには、タッチパネル式のものや、スイッチに触れることなく人感センサーで明かりがつくものがあります。こうしたスイッチは、高齢者や手が不自由な人でも簡単に操作できたり、または操作しなくとも照明を点灯させることができます。(3)階段の手すり階段の手すりもユニバーサルデザインのひとつです。階段の手すりが設置されていると、高齢者や歩行が困難な人でも安全に階段を利用することができますし、そうでない人が階段で転びそうになった際にも役立ちます。階段の曲がり角の部分では、特につまづきや踏み外しが生じることが多いため、手すりは重要な役割を果たします。そのほか、踏板や足元の照明を設置したり、階段の角になる部分にやわらかい素材を用いたりすることもまた、階段におけるユニバーサルデザインの一種です。4. 「商品」にあるユニバーサルデザイン身近にある商品にもユニバーサルデザインが施されています。(1)スマートフォン昨今のスマートフォンには、音声認識機能や画面拡大機能といった機能があり、視力や聴力に障害を持つ人でも利用しやすい仕様となっています。また、フォントや文字の大きさを変えられるので、スマートフォンは高齢者でも使いやすい製品だといえます。(2)文房具文房具のなかには、ユニバーサルデザインを意識した製品もあります。具体的には、右利き・左利き問わず使用しやすいカッターナイフや、弱い力でも紙を切ることができるハサミ、針が収納できるので安全に抜き差しできる画びょうなどが挙げられます。(3)お札知らない人も少なくありませんが、お札にもユニバーサルデザインが施されています。お札は、視覚に障害を持つ人でも種類がわかるよう、凹凸がついた識別マークが入っており、触るだけでどのお札かがわかるデザインとなっています。なお、2024年から導入される新紙幣では、識別マークの配置が変更され、より短時間で種類を判別できるデザインとなります(参考:2024年度上期 お札が変わります|国立印刷局)。5. その他の珍しいユニバーサルデザインユニバーサルデザインのなかには、珍しくてユニークなものもたくさんあります。(1)いちどにありがとう32「いちどにありがとう32」は、片手でも洗濯物を干したり取り込んだりすることができるピンチハンガー(洗濯バサミがたくさんついたハンガーのこと)です。2013年にグッドデザイン賞も受賞したこの製品は、片手が不自由な人でも利用しやすいデザインとなっています(参考:いちどにありがとう32 ★洗濯角ハンガー★|Image Craft 株式会社)。一般的な洗濯バサミの2分1で開閉することができるため、お年寄りや子どもなど力の弱い人でも使いやすく、また、一度に多くの洗濯バサミを開くことができるため、上手く使えば取り込みスピードが3倍になるというメリットをうたっています。(2)UDグリップ包丁「UDグリップ包丁」は、手首の関節に稼働制限がある人や、車いすに座って調理を行う人などでも使いやすいデザインが施された包丁です。持ち手の角度を変更することができ、またテコの原理で刃に力を伝えやすい設計になっています(参考:UDグリップ包丁(両手用)【ユニバーサルデザイン包丁,ウカイ利器】|福祉用具のアビリティーズ)。(3)我が家べんり化計画 フィルフィット ワンタッチペーパーホルダートイレをする際、片手でもトイレットペーパーをカットできる「フィルフィットペーパーホルダー」もまた、ユニバーサルデザインの商品の1つです。紙を抑えるフタの部分が上に上がりにくいように設計されており、片手に不自由がある人でも使いやすいペーパーホルダーです(参考:我が家べんり化計画 フィルフィット ワンタッチペーパーホルダー|オカ株式会社)。6. 番外編:「学校」にあるユニバーサルデザインユニバーサルデザインの考えは、学校にも取り入れられています。2007年に学校教育法が改正され、LD(学習障害)やADHD(注意欠如・多動症)、高機能自閉症などの発達障害を持つ生徒に対する「特別支援教育」を推進することが明確に規定されました(参考:特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正について(通知)|文部科学省)。また、2011年には障害者基本法が一部改正され、障害を持つ生徒と障害のない生徒が共に受けられる教育を推進することが求められています(参考:障害者基本法の改正について(平成23年8月)|内閣府)。そのほか、特別支援に関するさまざまな制度改正などが進められており、以前の教育制度よりも多種多様な特性・障害を抱えた生徒にとって学びやすい教育制度がつくられつつあります(参考:特別支援教育をめぐる制度改正|文部科学省)。日本授業UD学会は、授業のユニバーサルデザインとは、「特別な支援が必要な子を含めて、通常学級の全員の子が、楽しく学び合い『わかる・できる・探究する*』ことを目指す授業デザイン」のことであると説明しています(参考:理事長挨拶|一般社団法人日本授業UD学会)。このようにユニバーサルデザインの考えは、街や家、商品のデザインにとどまらず、「学校」や「授業」のなかにも取り入れられているのです。Wrriten by 346 inc. with Xaris7. デザインに関するお悩みがあれば346へこのように、ユニバーサルデザインは、学校や街中などのさまざまな場所で取り入れられています。また、上述したとおり、ユニバーサルデザインのプロダクトも少なくありません。製品開発などに携わっており、「多くの人にとって使いやすいデザインを自社製品にも取り入れたい」という担当者の方は、346までお気軽にご相談ください。弊社346は工業製品、とくに家電製品、医療機器、インフラ、産業機器などのエレクトロニクス領域の製品開発を総合的に支援しております。デザイナーをはじめ、各種エンジニアなども所属しており、様々なニーズにご対応可能ですので、お気軽にご相談、御見積依頼ください。株式会社346について 【会社概要】 会社名:株式会社346 本社:〒370-0059 群馬県高崎市椿町24-3(2F) 東京営業所:〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16 農工大・多摩小金井ベンチャーポート 202号室 (東京農工大学小金井キャンパス内) 代表者:三枝守仁 設立:2017年7月21日 URL:https://346design.com/ 事業内容: デザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業。グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)をはじめとし、国内外問わず多くの受賞実績を持つメンバーで構成され、大企業やスタートアップ企業向けの実績多数。企画、デザイン、設計、量産まで、製品開発にかかわる支援をワンストップで提供。製品開発でお悩みの方はぜひ、無料の資料請求からお申し込みください。デザインに関する解説記事ユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いもプロダクトデザインとは?インダストリアルデザインとの違いや事例、働き方を解説プロダクトデザインの料金の相場は?内訳や事例、依頼時の注意点も解説インダストリアルデザイン とプロダクトデザインの違いとは?(図解)デザインレビューとは?目的や製品開発を成功に導く効果的な進め方を解説ジェネレーティブデザインとは?人とAIが共創する技術の解説と事例紹介デザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説その他関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリーものづくりが好きな仲間を探しています弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。Wrriten by 346 inc. with Xaris