ジェネレーティブデザインとは、AIに製品開発の目的や具体的な要件を伝え、設計案を生成させる手法です。「ChatGPT」をはじめとする生成AIの話題が尽きない今、ジェネレーティブデザインも製造現場に大きな変化をもたらす技術として注目を集めています。この記事では、ジェネレーティブデザインの基本的な概念から始め、それがもたらすメリットや具体的な実施例をご紹介。続いて、ジェネレーティブデザインを実際に導入するポイントを解説します。今後ますます重要視されるジェネレーティブデザインの基礎を知りたい場合は、本記事をご参考ください。。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1.ジェネレーティブデザインとは?ジェネレーティブデザインとは、ジェネレーティブAI(生成AI)技術を用いた設計手法です。設計者が目的や開発条件を設定し、これらの情報を元に、AIが無数のデザイン案を自動で生成します。(1)ジェネレーティブデザインの特徴ジェネレーティブデザインの特徴は、一般的な設計手法のように人間が直接デザインを行うのではなく、AIによって解を導き出す点です。これにより、人間では思いつかないような独特な形状や新たな解決策を見つけ出すことができます。以下、ジェネレーティブデザインの主要な特徴です。【ジェネレーティブデザイン3つの特徴】特徴説明AIを活用AIが設計者と共にデザインを行う多数の案を自動生成目的や開発条件から無数の案を自動生成独自の提案人間では思いつかない形状や解決策を導き出す可能性があるジェネレーティブデザインは、このようにAIと人間が共創する新たなデザイン手法と言えます。(2)ジェネレーティブデザインとトポロジー最適化の違いコンピューターが行う製品設計の支援技術には、ジェネレーティブデザインのほかに、トポロジー最適化があります。両者ともに製品設計を最適化する技術ですが、アプローチが異なっています。まず、トポロジー最適化は、既存の設計に対して最適化を行います。物理的な形状条件を満たす範囲で、持ち上げる重量、耐久性など設計目標に対して最適な形状を導き出します。一方、ジェネレーティブデザインは、目標と開発条件のみを設定し、その範囲で無数のデザインオプションを生成します。人間が考え出すことのできない新たな形状やパターンも生み出すことが可能です。【トポロジー最適化とジェネレ―ティブデザインの違い】トポロジー最適化ジェネレーティブデザインアプローチ既存設計の最適化制約内での新規デザイン生成デザイン範囲既存の形状範囲無数の形状オプションこのように、トポロジー最適化とジェネレーティブデザインの目指すところは製品設計の支援という点で同じでも、具体的なアプローチや導き出す結果が異なります。どちらが良い・悪いというわけではなく、それぞれの技術を理解して活用することで、より効果的な製品設計が可能になります。2.ジェネレーティブデザインがもたらすメリットジェネレーティブデザインは、製造業界にさまざまなメリットをもたらします。(1)設計工程の短縮ジェネレーティブデザインの活用は、設計工程を大幅に短縮します。通常の設計作業では、設計者が目的や開発条件をもとに、選択肢をいくつか出しては検証、出しては検証というのを繰り返します。そのため、最適案を見つけるのに、ある程度の時間と試行回数が必要です。しかし、ジェネレーティブデザインならば、AIが設定した開発条件のもと、多数のデザイン選択肢を自動的に、かつ短時間で生成します。あとは設計者が、その選択肢のなかから最適な案を選定するのみです。【通常の設計工程とジェネレーティブデザインの比較】通常の設計工程ジェネレーティブデザインによる工程①要件定義②設計案の作成③評価・検討④修正・改善⑤②~④を繰り返しながら最適案を選定①要件定義②開発条件設定③AIによる案の生成④最適案の選定このように、従来の「評価・検討」や「修正・改善」の時間を大幅に削減し、効率的な設計作業を可能にします。(2)軽量化ジェネレーティブデザインの大きな特徴の一つは、製品の「軽量化」が実現できる点です。ジェネレーティブデザインでは、AIが解析を行う際に、人間では予見しきれない多数のパラメーターを考慮に入れて最適な形状を求めます。それによって、製品の強度や機能を保ちつつ、不必要な部分を削減し、材料の使用量を最小化することが可能です。例えば、航空機の部品の設計でジェネレーティブデザインを用いると、重量を削減しつつも、耐久性や安全性を確保することができます。これは、燃費の改善やエネルギー効率の向上に直結し、経済的にも大きなメリットとなります。昨今は、自動車や電子機器など、日常生活でも軽量化が求められています。ジェネレーティブデザインの活用により、これらの製品も軽く、使いやすく、そして環境負荷が少なくなる可能性が広がっています。(3)コスト削減ジェネレーティブデザインは、製品設計のコスト削減に大きく寄与します。まず、設計過程を効率化することで、設計者の作業時間が大きく減るため、人件費の削減につながります。さらに、最適なデザインを自動生成するため、無駄な素材使用を避け、材料コストの削減にもつながります。ジェネレーティブデザインによって開発したことで、同じ強度を持ちながらも材料使用量を大幅に減らせた、というケースは少なくありません。(4)新たなデザインの可能性ジェネレーティブデザインを用いると、新たなデザインの可能性があるのもメリットです。例えば、ある部品の設計において、最大荷重や重量制限、材質などの条件を設定し、それに基づいた形状をAIに生成させた際に、条件を満たしつつも設計者の経験では思いつかなかったデザインが提案されることがあります。一方、近年活用が急速に進んでいる技術に、アディティブマニュファクチャリング(3Dプリンティング技術など)があります。アディティブマニュファクチャリングは、3Dデータに基づき物体を層状に積み上げて造形する技術で、複雑な形状や内部構造の製品を作ることを可能としています。ジェネレーティブデザインで生み出された前例のないデザインを、まさに具現化する手法として注目を集めています。3.ジェネレーティブデザインの活用事例現在、ジェネレーティブデザインは、さまざまな製造の場面で活用されています。具体的な事例をいくつかご紹介します。(1)自動車部品の軽量化と性能向上を実現ジェネレーティブデザインの応用は、自動車部品の軽量化と性能向上に寄与しています。例えば、ゼネラルモーターズ(GM)は、ジェネレーティブデザインを用いてシートブラケットを設計しました。この結果、重量が40%も軽減され、強度と耐久性は以前よりも20%向上しました(参照:オートデスクとGM、将来の車両部品の軽量化を目指して ジェネレーティブ デザインで協業。新しい設計手法で未来の車を実現へ丨AUTODESK)。また、デンソー(DENSO)では、ジェネレーティブデザインを活用し、革新的なデザインのエンジン直載型ECUを開発。このデザインにより、冷却効果を確保しながら、従来の筐体よりも12%の軽量化を実現しています(参照:Direct Mounted ECU Concept丨DENSO)。(2)飛行機に使用するパーティションを改良ジェネレーティブデザインは、航空産業で注目されています。その一つがエアバスの軽量化プロジェクトです。エアバスは、ジェネレーティブデザインと3Dプリンティングを用いて、飛行機に用いていたパーティションを従来よりも45%軽量なものにすることに成功しました。これは年間3,180kgの燃料の節約につながる数字です。仮に飛行機1機すべてに開発したパーティションが採用された場合、年間166tの二酸化炭素(CO2)排出削減にもなります。エアバスの取り組みは、航空業界における燃料効率と環境負荷の軽減に大きく貢献しています(参照:飛行機による旅行の未来を再構想丨AUTODESK)。(3)そのほかの事例ジェネレーティブデザインは、それ以外にも多くの場面で活用されています。例えば、世界的に有名な建築設計事務所ザハ・ハディド・アーキテクツ(Zaha Hadid Architects)は、ビジョンや目的を具現化した非定型の建築物の設計にジェネレーティブデザインを活用しています(参照:How Architecture Firms Are Using Generative Design Today丨ArchDaily)。NASAへ技術コンサルティングを提供するジェイコブズ(Jacobs)は、CAD(Computer Aided Design)関連のソフトウェアを開発するPTCと連携し、ジェネレーティブデザインを用いて宇宙飛行士が身につける生命維持バックパックを設計。重量1g変わるだけで打ち上げ費用や宇宙飛行士の機動性が大きく改善されるといわれているなかで、部品の重量を最大50%削減することに成功しました。また設計時間も20%短縮され、設計チームの生産性の向上が見込まれています(参照:Jacobs社、ジェネレーティブデザインで航空宇宙業界の製品設計をさらなる高みへ丨PTC)。4.ジェネレーティブデザイン導入に向けたアドバイスジェネレーティブデザインを導入するときには、使用できるCADにはどんなものがあるのか、活用する際にはどんな点に留意しておいたほうがよいのか、事前に把握することが重要です。(1)ジェネレーティブデザインを使用できるCADジェネレーティブデザインを使用するには、当該機能を持つCADツールを導入する必要があります。以下は、主なツールです。【ジェネレーティブデザインを使用できるCAD】CADツールメーカー特徴Fusion 360 Generative Design ExtensionAUTODESK・ジェネレーティブデザインができる代表的なツール3DEXPERIENCEダッソー・システムズ・操作性に優れたCADツール・3D設計だけでなく、製品データの保管・共有やメンバーのタスク管理など、製品開発プロセスに関わる業務全体をカバーする機能を搭載これらのCADツールは、それぞれ異なる特性と機能を持ちます。ジェネレーティブデザインを導入する際は、目的や設計要件を把握したうえで、自社のニーズに最も合うツールを選ぶことが重要です。(2)ジェネレーティブデザイン活用時の留意点ジェネレーティブデザインの活用時に留意すべき点として、以下の項目が挙げられます。初期条件を正しく定めるジェネレーティブデザインの最終結果は初期条件に大きく依存します。設定するパラメーター、目的関数、制約条件などを事前にしっかりと定めることが重要です。デザインの採用基準を事前に設定するAIが生成したデザイン案の中から最適なものを採用するために、採用基準を明確にする必要があります。どのデザインがより優れているかを判断するための指標を設けるとともに、それが客観的で公正であることも重要です。製造性が考慮されているかチェックするジェネレーティブデザインは目的や開発条件を満たした形状を生み出しますが、製造性を考慮していない(実際に製造することが難しい)案を提示することがあります。製造コスト、製造方法(加工や3Dプリントなど)、材料特性、部品数などの観点からデザイン案を評価し、必要に応じてデザインの改良や製造プロセスの見直しを行うことが求められます。決定的な解を求めすぎないジェネレーティブデザインは多くの候補を出力しますが、「完璧な」デザインが存在するわけではありません。最後はあくまで人が仕上げることを忘れないようにしましょう。また、期待するデザイン案が得られない場合、デザイン案を生成するうえで設定した初期条件に不足がないか見直すことが大切です。むしろ、多くの候補の中から最適なものを選ぶというプロセスを通じて、新たな視点を身につけたり、アイデアのきっかけを得られたりもできます。知的財産権の管理について考慮するAIによって生成されたデザインの知的財産権はどのように管理されるか、法的な観点を考慮する必要があります。5.ジェネレーティブデザインの今後SDKI(渋谷データカウント)によると、世界のジェネレーティブデザイン市場は、2018年に1億3,700万ドルを越え、2024年には2億9,000万ドルに達するとされています(参照:ジェネレーティブデザインの世界市場丨SDKI)。その著しい成長の要因のひとつとして、ジェネレーティブデザインが製品の軽量化や使用材料の削減を実現する技術であり、それによってサステナビリティに寄与する点が挙げられます。製品の軽量化は運搬時のエネルギー消費を減らし、CO2排出量を削減するという環境に対する直接的な影響をもたらします。また、使用材料の削減は資源の有効活用につながり、廃棄物問題の緩和にも寄与します。このように、ジェネレーティブデザインは、製品ライフサイクル全体の環境負荷を低減させ、サステナビリティに大きく貢献します。今後、サステナビリティが社会全体でより重視される点を鑑みても、ジェネレーティブデザインはますます多様な業界から目を向けられると容易に予想できます。6.ジェネレーティブデザインに関するご相談は346へジェネレーティブAI(生成AI)の導入が各業界において著しい速さで進んでいることも相まって、ジェネレーティブデザインは製造業界でその活用が急拡大しています。「ジェネレーティブデザインによって何ができるのか」「どんなメリットがあるのか」は、早めに知っておくに越したことはありません。ただ、実際に使用するとなると、注意しなければいけないことが多くあります。いざ導入したものの、現場がうまく活用できていない、といった事態が起きないとも限りません。もし、ジェネレーティブデザインに関して「興味はあるが、不安もある」など、お悩みでしたら、一度専門家に相談するのがおすすめです。弊社346も、デザインをはじめとし、さまざまな専門家が所属するデザインファームであり、そのなかでジェネレーティブデザインの導入・活用支援も行っています。もし相談先をお探しでしたら、お気軽にご相談いただけたら幸いです。デザインに関する解説記事身近なユニバーサルデザインの事例13選!珍しいケースや歴史もユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いもデザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説製品試作の製作と評価:品質を向上させるための試作品の基本プロセスと活用メリットプロダクトデザインの料金の相場は?内訳や事例、依頼時の注意点も解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。346へのデザイン・製品開発依頼はCONTACTよりお問い合わせください。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。