デザインコンセプトとは、製品・サービスのデザインを制作する際の方針となる要件やイメージのことです。デザイン検討における「判断基準」となり、デザインに「一貫性」を与える役割を果たします。本記事では、デザインコンセプトの概要や役割、作成方法、事例などについて解説します。一貫性のある製品・サービスをデザインする方法に興味がある人は、是非本記事をご参考ください。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1. デザインコンセプトとはデザインコンセプトとは、製品・サービスのデザインを制作する際の方針となる要件やイメージのことです。具体的には、対象となる顧客情報や、製品・サービスの概要やイメージ、実装する機能などがまとめられます。デザインコンセプトは、デザイン検討における「判断基準」となり、デザインに「一貫性」を与える役割を果たします。※ここでいう「デザイン」とは、製品・サービスなどの見た目を改善することだけではなく、機能や使いやすさなど、顧客体験に関わる様々な要素を設計することを意味します2. デザインコンセプトの役割デザインコンセプトには主に以下2つの役割があります。組織全体の判断基準になるデザインに一貫性を与える(1)組織全体に判断基準になるデザインコンセプトには、組織全体の判断基準となる役割があります。製品・サービスをデザインする際は、専門領域の異なるさまざまな人と多くの意思決定を進めていきますが、その際、前提となる判断基準が明確でなければ、意見のすり合わせが困難になります。また、判断基準が不明瞭なままプロジェクトを進めてしまうと、製品・サービスが持つ価値・利便性が損なわれる可能性もあります。デザインコンセプトを利用すれば意思決定の際の判断基準が明確になり、意見のすり合わせの問題が解消され、事業に関する意思決定を円滑に進めることが可能になります。(2) デザインに一貫性を与えるデザインコンセプトは、製品・サービスの見た目や機能、ユーザー体験に結び付くさまざまな要素の整合性を担保する役割を果たし、その結果としてデザインに一貫性を与えます。逆に、デザインコンセプトが明確でなければ、プロジェクトを進行するなかでデザインの一貫性が失われ、「何のためのデザインなのか」「誰のためのデザインなのか」が顧客に伝わりづらくなくなる恐れがあります。デザインコンセプトを形成し、デザインの一貫性を維持することは事業を成功させる上でも非常に重要な観点です。3. デザインコンセプトの作成方法デザインコンセプトの作成方法はさまざまがありますが、本寄稿では以下のプロセスをご紹介します。環境分析を行うデザインのターゲットを決定する顧客のニーズを調査するデザインコンセプトをまとめる(1)環境分析を行うまずはじめに、事業に関連する環境分析を行います。環境分析とは、自社が置かれている状況ないし今後想定されうる環境変化を分析することを指します。環境分析の対象は、外部環境と内部環境の2つに大別できます。外部環境自社をとりまくマクロ環境(政治的要因・社会的要因・経済的要因・技術的要因)や、自社の顧客、業界、競合などの要素であり、社内でコントロールできない環境のこと。内部環境自社内のリソース(人・モノ・金・情報)や、技術力、ブランド価値などの要素であり、社内でコントロールが可能な環境のこと。環境分析の代表的な手法としては、SWOT分析が挙げられます。SWOT分析では、以下の通り、「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの領域に関する調査・分析を行います。プラス要因マイナス要因内部環境【Strength(強み)】自社の強み、優れている点、有利な点など【Weakness(弱み)】自社の弱み、劣っている点、不利な点など外部環境【Opportunity(機会)】自社にとってプラスに働く社会・市場変化など【Threat(脅威)】自社にとってマイナスに働く社会・市場変化など(2)デザインのターゲットを決定する次に、製品・サービスのターゲットやペルソナを明確にします。具体的には、性別や年齢、収入などの「デモグラフィックデータ」や、ライフスタイルや趣味思考などの「サイコグラフィックデータ」ごとに顧客セグメントをつくり、その中からデザインの対象としてふさわしい顧客セグメントを絞り込みます。この絞り込みを行う際は、(1)で行った環境分析の結果に基づき、競合よりも効果的にアプローチできる顧客セグメントを選定することが重要です。(3)顧客のニーズを調査する製品・サービスのターゲットが決まったら、次に製品・サービスによって解決すべき顧客のニーズを明らかにするための調査を行います。デザイン業務の中で実施する代表的な調査方法としては、以下の3つが挙げられます。インタビュー調査ターゲット顧客に会い、質問を行う調査方法。顧客の細かな表情や言動を観察したり、会話の流れに応じて顧客の価値観・背景を深堀りしたりすることで、顧客自身も気づかない「潜在的なニーズ」を探ることができる。観察調査(観察法)顧客が製品・サービスを使う様子などを観察する調査方法。顧客の振る舞い、製品・サービスが操作される様子、製品・サービスが使用される環境などを観察・記録し、ニーズを探る。製品の意外な使われ方など、見落とされがちなニーズに気づくことができる。アンケート調査ターゲットとなる顧客に対してアンケートを実施する調査方法。顧客満足度など量的なデータが欲しい場合に有効なアプローチとなる。(4)デザインコンセプトをまとめる(デザイン要求仕様書の作成)最後に、ここまでのプロセスで明らかになった事実や仮説をもとに、デザインコンセプトを検討していきます。具体的には、ターゲットとなる顧客や、製品・サービスの概要、イメージ、実装する機能、使い方などの方針を策定します。策定したデザインコンセプトは、「デザイン要求仕様書」にまとめます。デザイン要求仕様書とは、デザイン全体の方向性をまとめた文書であり、デザインの必要性や一貫性、実現可能性などを関係者間で共有・相互チェックするためのものです。デザイン要求仕様書にまとめる項目・内容の例を以下に示します。【デザイン要求仕様書にまとめる項目・内容の例】項目内容目的・前提条件製品・サービスの目的や、用語の定義などを記載する概要要求製品・サービスの主な機能や、ターゲットとなる顧客・顧客の課題に関する情報などを記載する詳細要求具体的に実装するデザイン(デザイン要求仕様)や、設計上の制約などについて記述する。これでデザインコンセプトの設定が完了し、製品・サービスのデザインの方向性が決定したといえます。4. デザインコンセプトの作成事例|株式会社346・DAVIデザインコンセプトの具体例として、弊社346が開発した缶オープナー「DAVI」の事例をご紹介します。DAVIは、缶の蓋を大きく開けることができる、缶飲料専用の缶オープナーです。本製品を使用すれば、缶のままビールをジョッキ飲みできるようになり、ビール本来の味や香り、炭酸のキレをさらに楽しめるようになります。従来から346社ではビールをおいしく飲む文化の普及に取り組んでおり、その活動のなかで既存の飲料用缶オープナーの使いづらさ・安全性の課題に気づき、本製品の開発がスタートしました。既存の飲料用缶オープナーの具体的な課題は、「缶の切り口が鋭利で危険なこと」や「切り取った蓋が飲み物のなかに落下すること」、「国内外のさまざまなタイプの缶飲料に対応していないこと」などが挙げられます。そこで本製品のの開発では、以下のようなデザインコンセプトを制作し、実装すべきデザインの方向性が策定されました。【デザインコンセプト(デザイン要求仕様書):缶オープナー「DAVI」の場合】目的・前提条件飲料缶の蓋部を簡単・安全・衛生的に開栓でき、飲料缶のままジョッキ飲みできるようにすることが本製品の目的。これにより、顧客はビールなどの飲料の香りや炭酸の切れなどを深く味わえるようになる。概要要求【競合製品との関連】競合製品は、以下の3つの課題を最低1つは抱えている。①缶の切り口が鋭利で危険性が高い②切り取った蓋が飲み物に落下するため衛生的でない③国内外のさまざまなタイプの缶飲料に対応できない本製品は上記の課題を網羅的に解決することにより、競合との差別化を図る。【主な機能】本製品には少なくとも以下の4つの機能を実装することとする①直観的な操作によって缶の蓋を切り取る機能②蓋の切り口を滑らかで安全に保つ機能③切った蓋が飲み物に落ちないように本製品内に蓋を保持する機能④さまざまな缶サイズに対応できる機能【対象となる顧客】①ビールが好きであり自宅で日常的に缶ビールを飲む人②身近にビール好きな家族・友人・知人を持つ人【その他制約事項】①意匠性に優れていること②市場性のある価格であること③他詳細要求実装するデザインの詳細については以下の通りとなる。①飲み口を滑らかで安全に保つため、飲み口の内側表層の一枚だけを切り開く方式を採用する②切った蓋を飲み物に落とさないプルタブの保持機構を独自性のある方法で実装する③家族・友人・知人に対する贈り物としても使えるように、人間工学に基づいた高級感のあるデザインを実装する④キャンプ・ハイキングなどのアウトドアでも使いやすいように、持ち運びに便利なサイズ・デザイン(カラビナフックにかけられるなど)を実装する5. デザインに関するお悩みなら346へデザインコンセプトは、製品・サービスのデザインの方針となる要件やイメージのことです。これを明確にすることで組織全体が共通認識を持てるようになり、プロジェクト推進の円滑化などのメリットが得られます。しかし、デザインコンセプトの作成には、適切なターゲット設定・課題設定はもちろん、デザインに関する専門的な知識・経験が求められます。「ターゲットに対して有効なデザインを作りたい」「自社ブランドのデザインを改善し、ブランド価値を向上させたい」「デザイン戦略・方針について専門家に相談したい」こうしたお悩みがあれば弊社346にご相談ください。346では、主に工業製品の製品開発やデザインなどをトータルでサポートしております。とくに家電製品や医療機器、インフラ、産業機器などのデザインに関しては、豊富な経験と知識を持つデザイナーやエンジニアが多数在籍しております。さまざまなニーズにご対応可能ですので、お気軽にご相談、御見積依頼ください。株式会社346について 【会社概要】 会社名:株式会社346 本社:〒370-0059 群馬県高崎市椿町24-3(2F) 東京営業所:〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16 農工大・多摩小金井ベンチャーポート 202号室 (東京農工大学小金井キャンパス内) 代表者:三枝守仁 設立:2017年7月21日 URL:https://346design.com/ 事業内容: デザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業。グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)をはじめとし、国内外問わず多くの受賞実績を持つメンバーで構成され、大企業やスタートアップ企業向けの実績多数。企画、デザイン、設計、量産まで、製品開発にかかわる支援をワンストップで提供。デザインに関する解説記事身近なユニバーサルデザインの事例13選!珍しいケースや歴史もユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いもデザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説製品試作の製作と評価:品質を向上させるための試作品の基本プロセスと活用メリットプロダクトデザインの料金の相場は?内訳や事例、依頼時の注意点も解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説デザインレビューとは?目的や製品開発を成功に導く効果的な進め方を解説<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。Wrriten by 346 inc. with Xaris