サプライチェーン・マネジメント(SCM)をわかりやすく解説|事例も紹介サプライチェーン・マネジメント(SCM)とは、サプライチェーンを管理・改善する業務のことです。SCMの取り組みは業務やコスト改善をするだけでなく、顧客や取引先との信頼関係を醸成し、組織全体の効率を上げるためにも重要な取り組みとなります。この記事では、サプライチェーン・マネジメントの概要や背景、導入のメリット、導入方法などについて解説します。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1. サプライチェーン・マネジメント(SCM)とはサプライチェーン・マネジメント(SCM)では原材料の調達や製品の製造、在庫管理、販売などの各プロセスにおける情報を連携させ、組織の垣根を超えてサプライチェーン全体の改善を行ないます。※ここでいう「サプライチェーン」とは、原材料の調達から消費者に届けられるまでの各プロセスのことを指します。例えば、小売店のPOSシステムの活用もサプライチェーン・マネジメントの一助を担います。POSシステムを活用すれば、販売実績などに基づいて需要予測をたて、商品の生産や物流、販売など各プロセスにおける計画立案やその改善が可能になります。米国企業ウォルマートでは、小売事業者や製造業者、中間卸業者の情報を連携し、欠品防止・在庫削減に取り組むCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)という経営手法が取り入れられています。この事例もまたサプライチェーン・マネジメントのひとつです。グローバル化や技術革新が進む現代において、迅速かつ正確に顧客のニーズに応えられるサプライチェーンを構築するには、サプライチェーン・マネジメントが不可欠です。(1)サプライチェーン・マネジメントの主な業務サプライチェーン・マネジメントでは、サプライチェーン上の商品・情報・お金を一元的に管理し、調達や製造、在庫管理、販売など各プロセスの計画立案に活かします。その業務としては、主に以下の4つが挙げられます。①計画業務・販売実績などを基に需要予測を立てる②実行業務・計画業務で策定した各計画に沿って、調達/製造/販売を実行する③評価業務・実行業務が各計画に沿って実行されたか評価する④ネットワーク構築業務・調達、在庫管理、流通などの各プロセスにおいて、パートナーとなる企業との連携、データ共有などの仕組み作りを行う(2)ロジスティクスとの違いロジスティクスとは、サプライチェーン・マネジメントと同様に、調達、生産、販売、回収までの供給プロセスを一元管理することを目指すものです。サプライチェーン・マネジメントと似た概念にあたります。ただし、ロジスティクスで管理対象となるサプライチェーンは自社内に留まりますが、サプライチェーン・マネジメントでは、自社だけでなく取引先等複数企業が連携したサプライチェーンの管理を行います。したがって、この2つの概念の違いは「関係先企業の活動の考慮を行うか」にあります。2. サプライチェーン・マネジメントが注目される背景近年、サプライチェーン・マネジメントへの注目が集まっている背景としては、以下の3つが挙げられます。グローバル化技術革新人材不足(1)グローバル化グローバル化が進み、1つの企業であっても調達や製造、販売を世界中で行うようになりました。このグローバル化の流れは、多くの企業に利益をもたらした一方で、世界中で生じる様々な出来事によって障害が発生するリスクももたらしています。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中のサプライチェーンに大きな影響を及ぼしています。経済産業省は、「ものづくり白書2023年版」のなかで、製造業のサプライチェーンに影響を及ぼす「自然リスク」「地政学リスク」「社会的リスク」「犯罪リスク」の5つをまとめており、留意を促しています。(引用:2023年版ものづくり白書 p.144|経済産業省)そして、こうした背景を鑑み、過度にグローバル化したサプライチェーンを見直す国内企業も現れているようです。(2)技術革新2000年代以降浸透したインターネット技術により、EC通販やネット経由のデリバリーサービスなどの新しいビジネスモデルが生まれ、サプライチェーンの多様化が進みました。具体的には、ITを通じてリアルタイムで在庫状況を確認する技術や、取り引きデータを自動的に計算して需要予測を立てる技術などが確立され、新たなサプライチェーンの仕組みが構築されていきました。こうした新技術は製造業のサプライチェーンにも影響を及ぼし、2011年にはドイツ政府によって「第四次産業革命(インダストリー4.0)」という産業政策が発表されました。インダストリー4.0は、ICT技術によって製造業の改革を目指す政策であり、AIやIoT、ビッグデータ処理などの技術を応用して最適なオペレーションを実現する工場(スマートファクトリー)の実現を推進していくものです。こうした技術革新やそれに合わせた各国の政策もまた、サプライチェーン・マネジメントが注目を集める理由のひとつとなっています。(3)人材不足現在、日本の労働人口は、少子高齢化の影響によって全体的に減少しています。2023年度版ものづくり白書によると、2022年の中小製造業の従業員数過不足DI(従業員不足を示す指数)はマイナス19.3となりました。この数字は、国内の中小製造業者の過半数が現在人手不足であることを示しています(引用:2023年版ものづくり白書 概要 p.26|経済産業省)、また、物流業者の人手不足の問題も深刻化しています。全日本トラック協会の2022年の調査によると、トラックドライバーが「不足」「やや不足」している企業の割合は50.2%であり、人手不足は日々深刻化しています(引用:第119回トラック運送業界の景況感(速報)p.2|全日本トラック協会)。鉄道貨物協会の報告でも、2028年度には27.8万人以上のトラックドライバーが不足するという予測がされています(引用:本部委員会報告書 p.104|鉄道貨物協会)。このように製造業だけではなく、サプライチェーンに欠かせない物流業者の人手不足も進行するなかで、持続可能なサプライチェーンの仕組みづくり及びSCMの導入は重要な取り組みとなります。参考記事:国内製造業の課題とは?2023年経産省の資料に基づくDXなど解決策も3. サプライチェーン・マネジメントを導入するメリットサプライチェーン・マネジメントを導入するメリットは3つあります。リードタイム短縮在庫改善人的リソースの有効活用(1)リードタイム短縮サプライチェーン・マネジメントの導入は、製品供給のリードタイム短縮につながります。リードタイムとは、何らかの作業・プロセスにかかる時間のことをいいます。例えば、商品が発注されてから納品されるまでにかかる時間や、製品開発で設計から量産体制の確立までにかかる時間などが挙げられます。リードタイムが短いほど組織としての効率が良いとされています。サプライチェーン・マネジメントでは生産や配送など各過程のタイミングや品質を適切にコントロールし、それによって取引先への納期や顧客への商品・サービス提供にかかる時間の短縮を目指します。リードタイムの削減は、取引先や顧客からの信頼性の向上や、競争力の向上にもつながる重要な要素です。(2)在庫の最適化サプライチェーン・マネジメントの導入は製品や部品の在庫改善を可能にします。サプライチェーンの各情報を活用した需要予測に基づき、製品の生産量や、消費者への販売までの一連の流れを管理することで、必要以上の在庫を持たせず、無駄な在庫を減らすことができます。また、需要が伸びるタイミングを予測し、適切に在庫管理を行えば、在庫コストの削減と、在庫切れによる販売機会の損失の防止を両立することが可能です。(3)人的リソースの有効活用サプライチェーン・マネジメントを導入すると、売上や在庫数、物流などに関する情報を一元的に管理でき、それに基づく人的リソースの配分が可能になります。例えば、サプライチェーンのデータに基づき市場の動向が変わるタイミングを予測し、各プロセスで必要なリソースを把握することができれば、人的リソースを効率的に配置することができます。余分な人的リソースを必要な箇所にまわすことができれば、組織全体が効率化されることになります。4. サプライチェーン・マネジメントの導入プロセスサプライチェーン・マネジメントの導入プロセスの例を以下に示します。①導入目的を明らかにする・導入の効果を調査し、自社の課題解決につながるか検討する②担当部署および担当者の配置・①で検討した事項を組織内で共有する③専門サービスを導入・サプライチェーン・マネジメントの導入に必要なサービスを調査/検討する④効果測定を行う・導入前後でKPIを比較して効果測定を行う5. サプライチェーン・マネジメント導入時のポイントサプライチェーン・マネジメントを導入する際は以下のポイントを抑えることをお勧めします。部署間/企業間の連携意識を高める制約条件を把握する(TOC理論)初期コスト・ランニングコストの検証(1)部署間の連携意識を高めるサプライチェーン・マネジメントでは、一部分の最適化(部分最適)ではなく、全体の最適化(全体最適)を目指します。そのため、導入プロジェクトの立ち上げに際しては、調達や製造、在庫管理、販売など、部署横断での情報共有や意識統一が重要となります。特に、縦割り組織の慣習が強い企業の場合は、サプライチェーン・マネジメント導入に向けては、まず意識改革を行う必要があります。(2)制約条件を把握する(TOC理論)サプライチェーン・マネージメント導入に際しては、制約理論(TOC理論)を活用することが望まれます。制約理論とは、全体の効率を下げる要因(ボトルネック)を優先的に改善することによって施策効果を高める、という考え方のことです。制約理論では、まず制約条件を洗い出します。ここでいう制約条件とは、全体の業務のなかで最も流れが滞っているプロセスのことを指し示します。制約条件が明らかになったら、優先的にそれを解消する施策を実施します。これによって効率的にサプライチェーン・マネージメントの導入効果の刈り取りを狙うことができます。(3)初期コスト・ランニングコストに留意するサプライチェーン・マネジメント導入に際しては、関係企業も巻き込み大規模なシステムを構築し、膨大なデータの分析・処理が行われる場合があります。こうしたケースでは専用のシステムを導入するケースが殆どですが、これらシステム導入や運用には多額の初期費用やランニングコストが発生します。また、業務フロー全体の改革も必須であり、多くの人的リソースが必要になります。したがって、こうした多くの導入コストが発生することを踏まえたうえでサプライチェーン・マネジメントを導入するか検討する必要があります。例え導入効果が高かったとしても、導入に要する費用がそれよりも大きければ、無駄な取組になりかねません。6. 製造業のサプライチェーンに関するお悩みなら346へサプライチェーン・マネジメントは、顧客や取引先との信頼関係を醸成し、サプライチェーン全体の効率を上げるために重要な取り組みです。しかし前述したとおり、いくつかのポイントに留意する必要があるほか、調達から販売まで幅広い領域にまたがる改革になるため、「どのように進めて良いのかわからない」と思う人もいるでしょう。製造業のサプライチェーンに関するお悩みであれば、弊社346にご相談ください。346は、製造業に特化した様々な専門家を有するメンバーで構成されており、製造業の課題解決を総合的に支援する事業を行っています。初回無料相談も行っているので、製造業に関するお悩みがあれば346までお問い合わせください。製造業の経営に関する解説記事製造原価とは売上原価との違いや計算方法、活用方法などを解説技術戦略とは?メリットや注意点、立案方法、導入事例を解説デザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説ものづくり補助金とは?(2023年版)申請方法やポイント、条件など解説その他の関連記事デザインマネジメントのこぼればなし 第1回 「デザイン組織のいろいろな人々」デザインエンジニア概論 第1回「デザインエンジニアとは」ハードウェアスタートアップのデザイン戦略 第1回「日本の製造業概況」デザイナーが知っておきたい 知財文献紹介【第1回】電池式携帯電話用充電器まんがでわかるインダストリアルデザイン 第1話「インダストリアルデザインってなんだろう?」デザイン漫遊記 ① スティックレー家具346 COMPANY LOG | 創業ストーリー<株式会社346について>346(サンヨンロク)はデザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業です。インダストリアルデザイナー、ハードウェアエンジニア、ビジネスコンサルタントなど様々な専門家で構成されています。346へのデザイン・製品開発依頼はCONTACTよりお問い合わせください。<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。Wrriten by 346 inc. with Xaris