パテントマップとは、特許情報を視覚化し、特定の技術分野の分析や製品開発の立案などに活用するツールです。自社事業の競合他社が得意とする技術分野を分析するときなどにも活用できます。この記事では、パテントマップの概要や活用方法、具体例を解説します。製品開発の担当者などはご参考ください。筆者経歴株式会社346 創業者 共同代表 菅野 秀株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他。アイティメディア株式会社の情報ポータル「Monoist」で連載中。1. パテントマップとはパテントマップとは、特許情報を視覚化的に整理する分析ツールのことを指します。参照:特許情報分析による中小企業等の支援事例集|独立行政法人 工業所有権情報・研修館具体的には、対象分野の特許出願状況や出願者の動向、技術トレンドなどを分析し、その結果をグラフや図などでビジュアル化したものです。上記のパテントマップでは、「環境負荷軽減」をプロダクトの形状によって解決する技術特許が48個、配置によって解決する技術特許が86個あることを表しています。これら情報を自社の製品開発や事業戦略の立案に活用することが、パテントマップの主な目的とされます。(1)パテントマップの活用方法パテントマップの活用方法は、技術動向や特許戦略の立案など多岐に渡ります。主な活用方法は以下のとおりです。活用方法内容新たな技術動向の把握後述する「侵入分析」を用いて特許の出願時期・出願企業などを確認し、新たに参入してきた企業や新たな技術動向を把握する競合分析後述する「ランキング分析」を活用し、特定の分野において出願件数が多い企業の把握などを進める。これにより、自社と競合他社の特許を比較することができ、自社の競争優位性を判断したり、新たなビジネスチャンスを検討することができる特許戦略の立案後述する「課題・解決分析」を活用し、特許が出願されていない分野や技術要素、競合が積極的に特許を取得している分野の分析等を行う。これにより、将来の動向を予測することで、自社の特許戦略をブラッシュアップできる研究開発方針を決定後述する「課題・解決分析」を活用し、未開発の技術や研究開発のテーマを把握する。これにより、競合他社がどのような手法を用いているかを把握し、自社の技術開発の方向性を決定するリスク管理後述する「時系列分析」を活用し、特定の技術分野における特許が出されているかを把握する。新製品や新サービスを発表する前に「時系列分析」を確認することで、特許侵害のリスクや訴訟リスクを早期に把握し、対策を立てる(2)パテントマップに必要な3つ要素パテントマップは、「特許情報」「調査・整理・分析」「視覚化・ビジュアル化」の3要素で構成されます。①特許情報特許情報には、「技術情報」と「権利情報」のふたつがあります。そのため、パテントマップを作成する際は、技術情報と権利情報のどちらの特許情報に重点を置くのかを定める必要があります。技術情報と権利情報の具体的な内容は以下のとおりです。特許情報内容技術情報・発明が属する技術分野(特許分類コード:FI(File Index))・技術分野における技術課題・解決手段・図面権利情報・特許権の範囲又は特許権を得ようとしている範囲(特許請求の範囲)・権利者(特許権者)・権利の発生時期や消滅時期(登録日・権利消滅日)②調査・整理・分析調査・整理・分析の業務は、パテントマップを作成する目的に合わせて、様々な手法・観点で行われます。たとえば、競合他社の特許出願件数を把握したいだけの場合、特許情報を細かく整理・分析する必要はありません。しかし、ある技術に関する特許出願動向まで確認したい場合は、素材に関する動向なのか、構造に関する動向なのか、製造技術に関する動向なのかなど、目的に応じた視点で特許情報を調査し、整理・分析する必要があります。③視覚化・ビジュアル化調査・整理・分析した結果を視覚化する際には、、「誰に対して見せるか」を意識した上で、視覚化する方法を検討する必要があります。たとえば、経営者やエンジニアのどちらに向けた情報かで、パテントマップの種類や作成方法は異なります。経営者に見せる場合、技術に関する細かい内容よりも先に、技術に対する出願件数や、自社と他社の比較など、マクロな視点のパテントマップが求められるでしょう。一方、エンジニアに見せる場合は、その後の開発に反映する必要がある為、詳細な内容や技術的な要素を重視すべきです。(3)パテントマップの2つの型パテントマップには、「統計型」と「リスト型」の2つの型があります。統計型とリスト型の違いは、特許情報の技術内容や権利内容の要否です。①統計型統計型(データ型)パテントマップでは、特許情報の書誌事項(出願番号、公開番号、特許番号、発明の名称、出願人名等)をもとにデータ分析し、技術内容や権利内容は読み込みません。統計型パテントマップの主な種類は、以下4つが挙げられます。ランキング分析侵入分析時系列分析レーダー分析②リスト型リスト型(内容型)パテントマップは、特許情報の具体的な技術内容(課題や解決手段、構成部位など)をもとにデータ解析します。リスト型パテントマップの主な種類は、以下2つが挙げられます。課題 解決分析材料用途分析2. パテントマップ具体例さきほどご紹介したパテントマップを具体例付きでご紹介します。ランキング分析侵入分析時系列分析課題・解決分析材料用途分析レーダー分析(1)ランキング分析引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例集|独立行政法人工業所有権情報・研修館縦軸に「出願人」、横軸に「件数」を設定し、特許出願件数をランキングで可視化するパテントマップです。ほかにも発明者や国、技術分野など主要項目の件数をもとに作成することも可能です。ランキング分析を用いれば、出願件数の多い企業や、ある技術分野において主要な企業を明らかにすることができます。(2)侵入分析引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例集|独立行政法人工業所有権情報・研修館縦軸に「出願人」、横軸に「年代」を設定し、いつ誰によって新規出願があったかを可視化するパテントマップです。特定の分野において、主要企業がいつ新規参入してきたかや、当該分野に置ける継続期間を把握できます。(3)時系列分析引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例|独立行政法人工業所有権情報・研修館特許出願人や出願時期とその件数をもとに、特定の分野における研究開発が活発だった時期を可視化するパテントマップです。上記の例では、2010年頃、研究開発が活発だったことがわかります。(4)課題・解決分析引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例集|独立行政法人工業所有権情報・研修館縦軸に「解決手段」、横軸に「課題」を設定し、ある技術課題に対する主要な解決手段が何かを可視化するパテントマップです。上記例では、環境負荷軽減という課題に対して、形状や配置の改良が解決手段として多くとられていることがわかります。また、これを活用すれば、交差する点の件数をもとに、他者と競合しない分野を探索することが可能になります。また、自社と競合のマッピングを比較し、自社の強みや弱みを把握できます。(5)材料用途分析引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例集|独立行政法人工業所有権情報・研修館縦軸に「出願人」、横軸に「材料」を設定し、各企業でどんな材料の用途開発が多いのかを可視化するパテントマップです。上記例では、該当分野で木質を使った開発アプローチが少ないことがわかります。未開拓の領域の探索や、差別化を図れる開発テーマなどの参考情報として活用可能です。(6)レーダー分析引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例集|独立行政法人工業所有権情報・研修館各企業の技術分野毎の出願件数をグラフ化し、技術分野の強さや弱さを視覚的に表現したパテントマップです。各企業の技術分野毎の強みや優劣を把握できます。他社の技術バランスを把握することで、自社にない高い技術を持った企業との提携などの検討が可能です。3. パテントマップの作成手順パテントマップの作成手順について解説します。ただし、開発を専門としている人や、慣れていない人がパテントマップを作成すると、時間がかかるだけでなく、アウトプットの精度が低くなる可能性があります。自社での対応が難しい場合は、パテントマップの作成を調査会社へ委託するのもひとつの手段です。(1)目的を明確にするまずは、パテントマップを作成する目的を明確にします。具体的には、競合他社の特許出願傾向を知りたい、技術動向を把握したい、新製品開発の参考にしたいなどが目的の例として挙げられます。また、報告資料としてパテントマップを作成する場合は、報告相手がどんな立場の人であるのか(経営者やエンジニア、外部など)を明確にします。(2)調査対象や分析項目を設定する目的に応じて調査対象や分析項目を設定します。具体的には、出願日や出願人、技術分野、国や地域などが調査対象の例として挙げられます。たとえば、競合他社の特許出願動向を知りたい場合は、まずは出願日や出願人、技術分野などを分析項目として設定します。(3)特許情報の基礎データを抽出する特許情報の基礎データは、特許庁が提供している無料ツール「J-PlatPat」から抽出可能です。J-PlatPatでは、簡易検索と詳細検索の2種類の検索方法があります。出願人の発明を一覧で閲覧したい場合は、簡易検索で出願人(会社)を検索します。ただし、パテントマップを作成するときは出願人だけでなく、出願日や技術分野などを絞り込んで特許情報を抽出することが多いため、詳細検索を利用することが多いです。詳細検索は、TOPページ左上「特許・実用新案」→「特許・実用新案検索」をクリックしてください。以下の画像では、詳細検索で「〇〇株式会社」の公知日/発行日が「2023年1月1日以降」の特許情報を検索しています。論理式を使い、特許情報をより絞り込むことも可能です。検索結果は以下の画像のとおりです。この記事では、例としてキーワードに「パナソニック」と入れて検索しました。右上の「CSV出力」をクリックし、特許情報を出力します。CSV出力するには、無料の利用申請が必要になります。利用申請をしていない方は「ご利用申請はこちら」からアカウント登録を行なってください。30分程度でユーザーIDが発行され、CSV出力が可能になります。以下の画面はCSV出力された特許情報です。(4)パテントマップを作成するまずは、J-PlatPatから出力したCSVデータをExcelで開き、データを保存します。保存したExcelデータをピポットテーブルで目的に応じた分析を行い、その結果を用いてグラフや表でパテントマップを作成します。下記例では出願日をもとに、出願件数の推移を確認できるパテントマップを作成しました。4.【有料】パテントマップ作成ツールパテントマップ作成する場合は、エクセルを使わずに有料のパテントマップ作成ツールを利用することも可能です。ULTRA PatentBiz Cruncherこれら2つの有料ツールは、豊富な特許情報をもとに特許の特殊検索や分析が可能です。また、多数の分析フォーマットが用意されているため、目的に応じて柔軟に対応できます。ただし、有料ツールを使いこなすには、特許に関する知識や分析手法など専門的な知識を必要としますので留意が必要です。5.製造業の課題なら346にご相談くださいパテントマップによって特許情報を視覚化すれば、対象分野の特許の出願状況や出願者の動向、技術テクノロジーのトレンドなどの分析が効果的に行えることをお伝えしました。是非、自社の課題や研究開発の方向性、競合他社との優位性を判断するときなどに活用ください。分析自体は自社で実施可能ですが、分析のリソースが足りない、分析結果に対して適切な解決策が見つからない、具体的な技術開発の進め方などで悩んでしまうなどもあるかと思います。そんな際は、製造業に特化したさまざまな専門家を有するメンバーで構成されている弊社346にご相談下さい。弊社346ではパテントマップの活用方法から、分析結果を活用した商品企画・開発の支援を提供しています。初回無料相談も行っていますので、製造業に関するお悩みがあれば346までお問い合わせください。株式会社346について 【会社概要】 会社名:株式会社346 本社:〒370-0059 群馬県高崎市椿町24-3(2F) 東京営業所:〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16 農工大・多摩小金井ベンチャーポート 202号室 (東京農工大学小金井キャンパス内) 代表者:三枝守仁 設立:2017年7月21日 URL:https://346design.com/ 事業内容: デザイン経営を中核にしたものづくりでテクノロジーの民主化を目指す開発・製造総合支援企業。グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)をはじめとし、国内外問わず多くの受賞実績を持つメンバーで構成され、大企業やスタートアップ企業向けの実績多数。企画、デザイン、設計、量産まで、製品開発にかかわる支援をワンストップで提供。デザインに関する解説記事身近なユニバーサルデザインの事例13選!珍しいケースや歴史もユニバーサルデザインの7原則とは?事例やバリアフリーとの違いもデザイン経営とは?成功事例や効果的な実践方法をわかりやすく解説製品試作の製作と評価:品質を向上させるための試作品の基本プロセスと活用メリットプロダクトデザインの料金の相場は?内訳や事例、依頼時の注意点も解説デザインマネジメントとは?デザイン経営との違いや具体的な業務を徹底解説デザインレビューとは?目的や製品開発を成功に導く効果的な進め方を解説<ものづくりが好きな仲間を探しています>弊社346ではデザイナーやエンジニアを募集しています。興味関心がある方はCAREERSよりお問い合わせください。弊社346では、本記事の連載または出版にご協力いただける企業を募集しています。興味関心がある方はCONTACTよりお問い合わせください。Wrriten by 346 inc. with Xaris